本の感想:つきのふね

本の感想:つきのふね 児童書のおすすめ本

つきのふね
森絵都(著)

つきのふね』は、この作品の舞台となっている1998年に出版された森絵都の児童書である。
児童書として書いた、とは作者本人が言っている。
本書を読む前にわたしがタイトルから想像したイメージは、「やわらかいファンタジーよりの作品かな?」だった。しかし、本書を読み始めてすぐにそれは裏切られることになる(笑)

万引き、ドラッグ、売春、放火...若さゆえの強烈な出来事が最初から最後まで登場するのだ。
当然、わたしの読み始めた時の印象は、どこが『つきのふね』なんだ???
わたしの予想はあっさり裏切られたのだが、物語の展開に目が離せない。一気に最後まで読み進めてしまったのだった。これはきっと主人公のさくらをとりまく3人の登場人物たちの「心模様」にあるのかもしれない。

主人公のさくらは中学2年生。
さくらには同じクラスメイトで親友の梨利がいる。梨利に好意を抱いている別クラスの男子生徒が勝田くん。勝田くんの猛アタックにも関わらず、梨利は普通に接しているため、さくら、梨利、勝田くんの3人は友達のような感じで日々過ごしている。
実はさくらと梨利は、万引き常習犯で、窃盗グループから抜けたくても抜けられずにいたのだった。ある日を境に、さくらは窃盗グループを抜けることができる。そこでさくらは、タツミマートで働く独身男性の智(さとる)さんと出会う。しかし親友の梨利は、一向に窃盗グループを抜け出せない。本当は梨利を助けたいさくらなのだが...

この登場人物たち、それぞれに変だ。
変というのは、4人がそれぞれに特定の部分に問題がある。
これを書いてしまうと読む楽しさが半減してしまう為、あえて書かない。森絵都の文章は、ゆっくりと流れている川が突然濁流になるような時がある。かなり突拍子もないことになっていくのだ。特に本書に登場する男性陣の勝田くんと智さん。かなり不可解で、かなりヤバい。

本書は、主人公さくらの視点で語られるため、当然主人公さくらの心模様はある程度把握できる。しかし、他の3人はそれぞれにある意味まともな人たち(失礼!)ではないため心が読めないし、読者はその本心が知りたくてやきもきしてくる。なんでそんな行為をしているんだろう?と純粋に気になってくるのだ。登場人物たちのこれまでの不可解な行為の理由が見えたとき、読者には、さざ波のように静かな感動が巻き起こってくるに違いない。

智さんの最後のセリフにわたしは思わずうなずいた。
そして、最後の最後に語られるある手紙
そこには、生きていく上でとてもとても大切なことが書いてある。

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