本の感想/倉本聰著 – 「ニングルの森」を読んで

小学校3〜4年生から読むことが出来ると思います。
人間以外の視点から人間について語った本は多くあります。
本書は、ニングルの目を通して見た人間ということになります。
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【写真/2011年11月3日 ツインリンク茂木ハローウッズの住人】
人間が発明した「電灯」や「文字」や「時計」、そして「土地の所有」、「お金」について…わたしたちにとっては、身近で大事なものが各章のテーマになっています。
各章は短く構成されており、読みやすいです。


ところでニングルとは、山奥にひっそりと棲んでいる体長わずか十数センチの小さいヒトです。
昔は里でも目撃された先住民族で、人間が森を伐り始めてから段々と姿を見せなくなったそうです。
ニングルの生活は、原始的です。
朝日とともに活動し、夜がくれば眠るのです。
モノを所有するという概念がほとんどなく、助け合って生活することが基本です。
大昔の人間の生活に、どこか似ています。
「人間のことを少ししゃべろう」
物語は、ニングルの長(おさ)の一言から始まります。
例えば第1章では、夜も起きている人間に対して、「暗くないのか」「何をしているのだ」「眠くないのか」と次々に質問が長に浴びせかけられます。
わたしたちが当たり前に使っている「電灯」は、ニングルの長からは「太陽」に置き換えられて説明されます。
人間の使っている「文字」に至っては、ニングルたちからすると、

人間も昔は、字なンて使っておらなンだしい。
それが字ちゅうもンを考え出したら、
忘れても平気だからうれしくなって、
どんどんどんどん忘れるようになって、
もう字なしにはいきられんようになった

となってしまいます。
活字本が好きなわたしからすると、「字」が存在しない時代を想像しにくいですが、かつて、すべての情報や重要なことがらは、口頭で伝えられてきたのです。
口頭で伝えられたことを「字」を使わずに、あるいは、パソコンや携帯電話なしで、すべて記憶することは現代人にとっては至難の業です。
でも大昔は、誰もが口で言ったことを口で伝えてきたと考えると、コンピュータも文字も人間から真剣さを奪う道具だったのかなぁ、と感じます。
得たものも大きいが、失ったものも大きいということでしょうか。
ニングルたちの驚きがコミカルで、ふつうに読むとおとなも子どもたちも面白おかしく読むことが出来ると思います。
しかし、ニングルたちの棲む森をうばったのは、人間です。
人間は、電力を得るため、ダムを作ったのです。
原子力発電にこそ触れてはいませんが、人間が今までしてきたことをニングルの目を通して振り返ることで、見えてくるものがあります。
そしてこの先、わたしたちは、どこへ行こうとしているのかも。
本書は、朝日新聞に掲載された「未来への子供たちへの童話」をまとめたものと最後に書いてありました。
その提供が東京電力である、ということもここに記しておきます。

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