ショートショートの花束9
阿刀田 高・編
本書の装丁は、一見わたしが高校時代によく読んだ星新一や阿刀田高の単行本を彷彿させる。
本書は、「小説現代」のショートショート・コンテスト入賞作品を60編集めた単行本の中の1冊である。
60作品とも全て異なる作者によるショートショートのため、文体はもちろん作風も一貫性はない。ショートショートという点のみが共通点だ。一番短いものだと見開き2ページもないものまで。(原稿用紙でいうと1枚半くらいか)
ほとんどの作品は、4~5ページに収まっている。気持ちがいいくらいショートショートの作品群たちだ。
ショートショートの良い点は、短いのですぐに読めて、かつトリックやどんでん返しが面白いことにある。
実際読んでみると、素人風の文章あり、プロじゃないかと思う作品もあり面食らう。
それもそのはず、若い作家もこのショートショート・コンテストに応募することもあるという。選者の阿刀田高氏は、正真正銘のプロの作家なので、腕試しをしたい人も大勢いるのだろう。
中には、詞のような味わいのショートショートや最後にホロっと泣けてくるもの、自白調のもの、少し怖くなるものまで多種多様で意欲的な作品集となっていると思う。
個人的には、老人ホームが舞台の「着ぐるみ」などはブラックな感じが出ていて好きな作品だ。
阿刀田高編となっているように、巻末にはショートショート作品ごとに阿刀田高氏の選評と採点が掲載されている。
これがまた面白い。
わたしはどちらかと言うとこの阿刀田氏の視点と採点に注目して本書を読んでしまった。
最初は、気になるタイトルを適当に読んでいたのだが、途中から1作品読むごとに「阿刀田氏はどんな評価をしたんだろう?」とか「この作品は何点だったんだろう?」という部分が気になっていった。
結局1作品読んだ後に、その作品の阿刀田氏の選評と採点をチェックする、という読み方に変わっていった。(自分としては評価の高い作品が阿刀田氏によると低い評価だったり、はたまたその逆だったりとそうした見方の違いを楽しむ方向へと変わっていった)
本書の良くないところは、(実際に良くない訳じゃないですけど)読んでいるうちに自分でもショートショートが書けるんじゃないか、と錯覚させてくれる点だ。
これは星新一のショートショート集を読んだときと同じ感覚である。
素人には、残念ながらプロの技量が見えないのだ。自分でも書けると勘違いしてしまう。
こうなったら、一環の終わり。すでにあなたは本書の餌食となってしまっている。
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