本の感想:イワンのばか/トルストイ

人はいかに生きるべきか、という根源的な問いを「ばか」の「イワン」がわたしたちに教えてくれる。
イワンのばか
レイ・ニコラーエヴィッチ・トルストイ(著)
イワンのばか (岩波少年文庫)
ロシアの文豪といわれるトルストイの作品集。
タイトル作以外には、「人は何で生きるか」、「人には多くの土地がいるか」、「愛のあるところには神もいる」等収められている。
タイトル『イワンのばか』は、翻訳も多い。「ばか」というタイトルで記憶している方も多いのではないか。


わたしは小学生のころ、学校の図書館でこの「イワンのばか」の背表紙を何度か目にしては気になっていた。
一度読んだことがある。しかし当時はあまり感動しなかった。
本当にイワンが「ばか」なのではないかと思ったからだ。
イワンは3人兄弟の末っ子で、正直すぎるその人柄から二人の兄たちから「ばか」と言われている。
イワンの家は物もちの家で、二人の兄たちはある程度の成功を収めている。
兄の一人は軍人で、もう一人は商人である。そしてイワンは農業を営んでいる。
軍人の兄は、もっと兵隊がいれば、沢山の領土をもつことが出来ると考える。商人の兄は、もっとお金があれば、好きな物を買うことができると考える。イワンは、百姓をして日々を暮らしている。
イワンは兄たちがイワンの耕している土地や畑仕事に使う牛、父親の財産など好き勝手に持っていってしまう。
「土地をくれ」「牛をくれ」「お金をくれ」「食べ物をくれ」…他人の望みに対してのイワンの答えはいつも決まっている。
「ああ、いいとも!」
だ。
イワンの行いは、人がいいどころの話ではなく、普通に考えれば「ばか」なのではないだろうか。
しかしその生き方は一貫していて、「人のため」に自分が出来ることをしているのだと気づく。
イワンは最後に一国の王となるが、その国では困っている人を誰でもやしなってくれるのだ。
ただ一つその国にはしきたりがある。

手にまめのある者は食事の席につかせてもらえるが、まめのない者は、人の残りものを食べなければならない。

著者トルストイは貴族出身である。農民への理解と愛情をもっている貴族だ。
表題作の他、『人は何で生きるか』、『人には多くの土地がいるか』の2作品も味わい深い。
『人は何で生きるか』は、神さまの怒りにふれた天使が与えられた3つの試練、

「人間のなかには何があるか」
「人間にゆるされていないのは何か」
「人は何で生きるか」

を地上に降りた天使が探していく話。
『人には多くの土地がいるか』は、起きて半畳寝て一畳という格言を思い起こさせる。
200年も昔のロシアの文豪が、現代社会で生きるわたしたちに「人はいかに生きるべきか」を教えてくれる。

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