本の感想:おとうさんがいっぱい

おとうさんがいっぱい
三田村信行(作)
佐々木マキ(絵)

おとうさんがいっぱい (新・名作の愛蔵版)

小学生時代に考えたことは、想像力豊かだった。
しかし、わたしはその物語の結末までを考えたことがあったろうか。

三田村信行は、想像力を最後まで伸ばしてわたしたちにつきだしてくれている。

表題作「おとうさんがいっぱい」含む5つの不思議なお話を集めた短編集。
わたしは挿絵だけで本を手にとってしまうくせがあり、本書も佐々木マキの絵とタイトルが妙にマッチしていたので読んでしまった。

読み終えた後に、挿絵をあらためて見ると、佐々木マキの絵を選んだ時点で、この物語は完成したのではないか、と思ってしまう。文章力もさることながら、絵がさらに想像力を掻き立ててくれているのだ。

ときどき自分のイメージと本の挿絵が合っていなくてがっかりする本というものがある。(でもこれはわたしの主観なので、この本がだめだ、という訳にもいかないが)
絵と文がマッチしている本をあげるなら『花さき山』などで知られる斎藤隆介と滝平二郎の作品が真っ先に思い浮かぶ。
「あたかも一人の人間が作った作品のように存在していることが素晴らしい」と以前にわたしは斎藤隆介と滝平二郎の作品を評したことがあったが、本書もまた然りだ。

どの物語にも小学生くらいの少年が主人公として登場する。
想像力豊かな小学生くらいのときにこんなこと考えたかもしれない、という雰囲気がどの物語にも共通して感じられる。
そして、物語の結末はちょっと怖く不安だ。
ユニークな挿絵に、わたしはいい意味でだまされた。物語を読み終えた後、少し考えこんでしまうのは、「そんな話あるわけないさ」、と笑って済ますことが出来ない何かがあるからだ。

(こんな広い世の中だもの、どこかに子ども一人で生きてけるところがあるかもしれない)

巻末「かべは知っていた」より

遠い昔、君が考えていた不安は、こういうことだったんじゃないの?と本書は思い起こさせてくれる。

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