本の感想:デルトラ・クエスト3〈4〉最後の歌姫

デルトラクエスト

真実、希望、力、神力、誠実、名誉、幸福。
7つの宝石と7匹の竜。
全15巻あるデルトラクエストシリーズの最終巻です。
デルトラ・クエスト3〈4〉最後の歌姫
エミリー・ロッダ(著)

主人公リーフ達、そしてデルトラ王国は、幸福を手にすることが出来るのでしょうか?
この最終巻でわたしたちは、「影の大王」の狡猾(こうかつ)さに恐れと不安をおぼえ、リーフ、バルダ、ジャスミンの3人に希望を託すことになります。


主人公リーフたち一行の最後の旅の場所、「最後の歌姫」は第1巻に登場していたことをわたしたちは知ることになります。
西の歌姫をたおしたリーフ達は、最後の目的地「デル」へと向かいます。
戻ったリーフ達を待ち受けていたのは、謎の伝染病でした。
伝染病はトーラから持ち込まれたとの風評が広まり、リーフの母親がその原因とされてしまいます。

影の大王、きつねのごとく狡猾にして、あきらめることを知らず。そのケダモノの怒りと嫉妬においては、千年の時も一瞬にすぎない。


リーフ達が戻ることが予期されていたように事件は次々に起こります。
仲間の中に誰かスパイがいるのでは?
デル城の中に敵がいるのでは?
リーフ達よりも読者の方が疑心暗鬼になってしまいます。
この最終巻では、7つの宝石にまつわる7匹の竜がすべて登場します。
「なまえ」を知っているということは、そのものを支配できると言うことだ、とは竜の言葉です。
デルトラシリーズには、哲学的な言葉が数々登場しますが、この言葉もその一つです。
最後の戦いでリーフは、大きな過ちをおかします。
今までの旅の結果がすべては影の大王のまいた種だったことに気づくのです。
落ち込んで絶望の淵にいるリーフにトーラの老人ゼアンがこう言います。
「わたしは長く生き、いろいろなものをみてきました。だから、わかるのですよ。たった一つのまちがいで、人生や、一つの国が、破滅することなどありません。たいせつなのは、まちがいを犯したあとどうするか、なのです。過去をふりかえってごらんなさい。絶望は敵。けっして……あきらめては……なりま……せ……ん……」
絶望は敵。
けっしてあきらめてはいけないのです。

最後に様々な秘密があきらかになっていきます。
その中の一つにわたしたちに対する警告めいたエピソードがあります。
「いま、わかったよ。あたしは、話の一面だけをきいていたんだね。かたよった目で、あんたたちをみていたんだ。すまなかった。あやまるよ」
カプリコンたちが建てたきれいな街を赤いランタンで飾っていたことに腹を立てた竜に対して、リンダルが謝る場面です。
赤いランタンは竜の卵の中身を吸い取ったものだったのです。
生き物の「死」のうえに、きれいな街が存在しているとしたら?と自分たちに置き換えて考えずにはいられません。
実は影の大王は、物語の最後まで姿をみせません。
声だけがリーフにささやきかけてくるのです。
わたしは、こうした演出の中に作者の言いたかったことがあるような気がしています。

だれにも負けない力をやろう。
栄光を手にしたいか?
もう何も、うしなわずにすむぞ。

金貸しジャックもこの言葉にくらっとし、影の大王の手下になりました。
いやまてよ、と思うのです。
「影の王国」というのは、この物語の中のことではないと。
わたしたちがこのまま気づかないで暮らしているうちに行き着く先なのではないか。

緑豊かな大地を奪い、人々の心につけ入り、すべてを闇にかえてしまう「影の王国」は現実に今目の前に存在しています。
著者エミリー・ロッダは、この物語「デルトラ・クエスト」を通じて、

「はやく、気づきなさい」

「気づいたら、すぐに行動しなさい」
とわたしたちにまっすぐに語りかけてきているのです。
ベリタス、ホープ、フォース、フォーチューン、フィデリティ、オナー、ジョイ
デルトラ・クエスト 全15巻/感想 完

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