本の感想:にんじん(ポプラ社文庫)

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「母親からの”いじめ”にあう子供」という題材なのになぜかカラッとしているフランス文学。
にんじん
ジュール・ルナール(著)
にんじん (ポプラ社文庫)
赤毛でそばかすだらけの顔のため、家族から「にんじん」と呼ばれている男の子が主人公。
作者のジュール・ルナールは幼少時代に母親から愛されず、母親を愛することもできない不幸な家庭環境だった、とあとがきにある。


本作は、散文形式でさまざまなエピソードが散りばめられている。とくに脈絡もなく次の話がはじまる。
19世紀のフランス文学は、虐待の子供が主人公になっている作品が多いとのこと。
しかしこの作品が、じめじめした話になっていないのは、主人公にんじんの行動に少しばかりユーモアがあるからだ。
例えば、久しぶりに会う(にんじんと兄妹は寄宿舎のある学校に通う比較的裕福な家庭だ)両親に対し、
こういった場合、両親との距離が近くなったら走り出して抱きついたほうが喜ぶかな?
抱きつくなら父さん、母さんどちらが先の方がいいだろうか?

などと考え、嵐の夜に外を見回りに行くふりをして、扉の裏で息をひそめしばらく時間をおいてから家族の前にでていったりする。
にんじんは、いたずら好きな子供に見える。
母親からいじめに遭っているのに”いじめ”に見えないのだ。
しかし、にんじんは、母親を心から嫌っており、母親もにんじんに対しては他の兄妹と違って冷たくあたる。
これは幼少時代の著者ルナールそのものなのだ。
ルナールの父親は、晩年自殺をして、母親は井戸に落ちて亡くなった、とあとがきにある。
不幸な家庭環境といってしまえばそれまでだが、著者はそれを文学にまで高めてしまっている。
わたしが、この作品を読み驚いた点がひとつある。
にんじんやその兄妹(たぶん小学生から中学生くらいの年齢)が普段の生活でお酒を飲んでいることだ。
父親と川に水浴びにいったシーンでは、父親が「そろそろ上がってラム酒を飲みなさい」とにんじんにいう。
日常の食卓には、子供に対してもワインがでてくる。
狩りにいくシーンでもブランデーを飲みながらだ。
現代のフランスでは違うと思うが、この当時の話としては、普通のことのようだ。
もちろんそういった習慣は場所にもよると思う。にんじんは田園地帯に住んでいる。
こうした生活習慣がかいま見られるところも昔の文学を読む上で興味深いところだ。
ところで、にんじんは本当に母親からの”いじめ”に遭っていたのだろうか?
読んだあとに、もしや、と思う。
そういえば、この主人公にんじんのように、かまってくれない母親に対して抱いた感情は、かつての自分にもあったような気がするからだ。
読み終えたあとに結論がでる訳ではないが、あとあと考えさせられる本だ。

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