コンピュータが仕事を奪う
新井紀子(著)
「技術によって生活の場所を奪われて初めて人々はその意味に気づくのです」
わたしたちが、今まで奪われてきた仕事についての冒頭の言葉が印象的だ。
コンピュータというものについての考察。
現代社会においてわたしたちを支配しているコンピュータとはいかなるものか、を数学者という立場から書いている本。
前半部分は数式が多いので、数字嫌いの人(わたしも含め)はいやになってしまうかもしれない。数式を気にせず読み飛ばしても(失礼!)十分に本書の内容は、面白いし、かつ興味深い。
著者が伝えたいことの一つは、コンピュータはこれからもわたしたちの生活を便利にするが、同時に脅かす存在でもあるということ。
もう一つは、コンピュータに支配されない生き方をするにはどうしていけばいいのか?ということ。
わたしたちは、すでにコンピュータの手足となって働いている、という構図にゾッとなる。
例えば、インターネットの動画や画像共有サイトは、無料で利用できるようになっている。わたしたちは、日々せっせと動画や画像をアップロードし、検索されやすいようにタグをつけている。コンピュータシステムにとっては、データが全てだ。もう少し、詳しく説明するなら、データ量が全てである。
「このサイトにアクセスして、あなたの持っている写真をアップロードしてください。
アップロードしたらタグをつけて検索しやすいようにして下さい」などと言われれば誰も利用しないが、
「無料で4GBまで、画像をアップロードし、共有できます!」となると皆利用する。
こうして、通常なら賃金を支払ってでも入力してもらうデータを無料でかき集めている。
本書で、提示されるコンピュータと人との関係は、利用者としてコンピュータを使っている側からは、想像もつかないことばかりだ。
他にも近い将来に向けた技術の紹介も面白い。
次世代検索システムである<Wolfram Alpha>では、数についての縦断検索をしてくれる。
人工知能との会話を提供してくれる<Jabberwacky>(現在アクセスできません)は、今まで人間が<Jabberwacky>と会話した膨大なデータから、時にとんちんかんな、時に人間らしい会話をする。
同じ15文字でも「139486423986708」はパッとは憶えられませんけれども「パッとは憶えられませんけれども」という言葉は覚えるのは簡単だ、と著者新井紀子はいう。人間とコンピュータとの違いを説明する場面だ。
コンピュータにとっては文字は、ただの0と1のデータに過ぎないが、人間にとっては、文字は意味を成す。人間は、数字の15桁に意味を見出せないが、「パッとは憶えられませんけれども」には、意味を見出すことができる、ということらしい。
<コンピュータと人>というテーマに終始するものかと思いきや、最後には教育について書かれていた。
小さい子どもでも論理的に考える事ができるようになる訓練方法があるか。 「なぜそうなの?」という問いに対し、5回に1回は、「なぜだと思う?」と問うてみる。
著者は、今後のコンピュータ社会について危惧しているのだ。
教育の枠組みや、コンピュータに使われないようにするには、どう子どもたちを教育していけば良いか、など著者は本気でこれからの教育について提案をしている。
コンピュータを若いうちから利用させるよりも、年中ネットワークにつながることによって思考が中断することの弊害のほうを心配するべきです。
という言葉が、大人であるわたしの胸に響いてくる。
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