言葉と責任

「大往生したけりゃ医療とかかわるな」という本を父に贈ったことがある。
そのとき父は癌だった。

わたしは良心から本を贈ったつもりだったのだが、わたしのしたことは「人の気も知らないで」ということに他ならなかったようだ。

その本では、医療や介護施設に携っている著者が、「過剰な治療は自然死を迎えることができない」とか、「どうせ死ぬなら癌で死ぬのが辛くなくていい」などと述べていた。その本を父は少しは読んだのだろう。
こんなことを父に言われた。

「癌にもなったことがないヤツが何を言ってるんだ」

言葉は著者に向けられたものだったが、それはそのままわたしに突き刺さった。

「100歳まで生きる知恵」などと100歳にもなったことがない人が本を出し、「病気にならない生き方」などと、この先病気になるかもしれない人が本を出している。
言葉を発することは簡単だが、言葉に責任を持つことは難しいものだと父から教えられた。

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