サイレント映画のような絵本だ。不思議と何度も読み返してしまう。
ARRIVAL/アライバル
ショーン・タン(画)
「両親へ」と冒頭にある。
この絵本の一番の特長は、タイトルと「両親へ」意外には文字が無いことである。
家族との別れ、移民として降り立った異国でのできごとが淡々とセピア調の絵によって紡がれていく。
「感謝」が先だろうか。「別れ」が先だろうか。親に対しては。
サイレント映画(無声映画)のような絵本だ。(というか絵しかない)
サイレント映画についてわたしはチャップリン以外には知らない、というよりもほとんど観たことがない。
だから、この「ARRIVAL」がサイレント映画のようかどうかは分からないが、絵から音や会話が聞こえてくるのだ。それもほとんどの場面において。
ファンタジーでもなく、絵本でもない。映画でももちろんない。
わたしがこの「ARRIVAL」を本屋で手に取ったとき、状況としては立ち読みできたのだが、何かこの本に対して失礼な気がしたのでやめた記憶がある。
ゆっくりと読む(観る)ことがこの本に対しては楽しむための秘訣かと思う。
ただし前半の内容はちっとも楽しそうではない。不安が大空に舞っている。実際に何か舞っている。
地球上にはない生き物や食べ物、道具などが途中から登場するので、絵だけを見ればファンタジックである。
色調はセピア色のため柔らかく感じるが、描写は細かい。
それでいてどことなく夢の中で見ている絵のように感じてしまう。
これも「字のない絵本」のなせる技だろうか。
読み終えて「あっ。そういうことだったのか」と思い出すことになる不思議な絵本が本書アライバルである。
わたしは、何度も「もしかしてあの場面では…」と振り返って本書を読み(?)返すことになった。
さまざまな人が主人公を助けてくれる。
人は人生のうちで何人のひとと関わりをもつのだろう。わたしも多くの人に助けられて生きてきた。
人は死ぬ前に自分の人生を走馬灯のように思い出す、と言うがこの絵本の世界のようなものだろうか。
わたしは、独り異国の地アフリカのアルジェリアを旅したときのことを思い出した。
ろくに現地の言葉もしゃべることの出来ない日本人のわたしをアルジェリアの人々はあたたかく迎えてくれ、ときに助けてもくれた。
無料で宿まで提供してくれた人もいた。
わたしの人生の走馬灯には、そのときに助けてくれた異国の人たちもきっと登場するに違いない。
この本、ARRIVALのように。
※この本は、『本と集う会』でHさんより頂いた本です。ここにお礼を述べさせて頂きます。素敵な絵本ありがとうございます。
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