本の感想:誰も気づかなかった介護の真実〜疑似体験から聞こえてきた心の声

アイキャッチ未登録画像 面白かった本(その他)

わたしは、介護する側でも、介護される側でもありませんが、読んでみて大変参考になった本です。
世の中で生きて行く上で「人の気持ちになる」ということを考えさせられてくれる本です。

誰も気づかなかった介護の真実 〜疑似体験から聞こえてきた心の声
医療法人森田記念会/介護老人保健施設 プロスペクトガーデンひたちなか編
誰も気づかなかった介護の真実

この本について

本書には、
介護される側の8時間に及ぶ体験として

  • 右半身麻痺(まひ)を体験するために顔面にテーピングして食べる事でわざと不自由な状態にする
  • 失語症を体験するため、8時間自分から言葉を発しない
  • 素足で車椅子にのせられる
  • オムツに排泄をし、何時間もそのオムツをつけた状態で過ごす
  • 歯ごたえのないものを食べる
  • ベッドに寝返りが出来ない状態で2時間も固定させられる

など、普段は介護している職員に介護される側を体験をさせたときのレポートがまとめられています。

どうですか?
排泄をしたオムツで何時間も過ごせますか?
でも介護されるこの施設の利用者は、これが毎日のことである人もいるのです。

この本は、実は頂き物です。
学生のボランティア活動の受け入れ先として、わたしがお伺いしたプロスペクトガーデンひたちなか(介護老人保健施設)の副施設長の須田祥子さんに頂きました。
待合室に置いてあったこの本をパラパラと見たとき、買おうかなぁと思っていたので、帰りがけに須田さんから直々に本書を頂いたとき、大変感激しました。
この本は、副施設長の須田さんが中心となってまとめられた本で、最初は自費出版で考えられていたそうです。
現在講談社から発売されています。須田さんご自身も、記事を書かれています。

読ませて頂いた感想

介護するとか、介護しないに関係なく、人として大切なことが書いてあります。
成功者の本や自己啓発本などより、ずっと価値のある本だと思います。

頂いたから言う訳ではありませんが(笑)多くの人に読んで欲しい本というのが、わたしの率直な感想です。

良かれと思ってしたことが

わたしが印象に残ったのは、この疑似体験を行うまで、いくつかの場面において職員が良かれと思ってしていたことが、施設の利用者からは、虐待に近いものになっていたという事実です。
また、この疑似体験が「本人は失語症である」という設定からコミュニケーションが出来ない(あるいは困難な)利用者からするとちょっとした声かけや微笑みがとても相手にとって大事なことであることがわかります。
何も声をかけずに、食事を目の前に「ボン」と置く事がいかに人の心を傷つけているか。
自分から声を発する事が出来ない人が、相手の微笑みから感じとるものがいかに大きいか。
疑似体験した職員の声が語ります。
そして、この職員たちの「気づき」によって、この施設が日々改善されていく様子が描かれていきます。

ほんのちょっとした事

それぞれに「ほんのちょっとした行動」がいかに相手の気持ちを左右しているか。ちょっと誉めるとか、ちょっとふとんをかけてあげるとか、ちょっと「暑いね」と言うとか、ちょっと待ってみるとか、本当にほんのちょっとのことが、実は毎日の生活の中で繰り返すうちに、大きなことに結びついているのかもしれません。

あなたとわたしの人生は「ほんのちょっと」の差なのかもしれないです。
冒頭にある「我々のような施設は、根本的には『人』で成り立つ。『人』がすべてであり、『人』によって介護の質は変わってしまうのだ」という言葉は、介護だけでなく、すべての仕事にあてはまるように思います。わたくし自身、学校という職場で働いているので、ああそのとおりだと感じました。

施設利用者は周囲の音を聴きわけていない

<利用者は聴きわけてはいない>という部分も興味深いです。
「自由に身体を動かせない状態でいると、やたら物音や人声に敏感になり、自分に向けられている言葉ではないと分かっていても、心は自分に投げかけられたように反応してしまう」というものです。
利用者は他人の話し声も、職員の汚い言葉遣いも、だれかとだれかが喧嘩している言葉も自分に向けられた言葉として聞いている、という事です。これは怖いです。

昔、「自分が発する言葉はいい言葉を使おう。なぜなら自分が聞いているから」と聞いたことがあります。
自分が発した言葉が相手だけでなく、自分の近くにいる人にまで影響を与えているのは怖いことです。
いま自分が発している言葉は、誰が聞いても「いい言葉」なのか。
わたしも反省をこめて意識してみようと思いました。

オムツについて

オムツをしている」ということ自体が、自尊心を傷つけている行為。
機能としては、2000ccもためることが出来るオムツがあるとのことですが、「おしっこを2000ccも抱えながら生活したい人がいるだろうか?」とは自明の理です。

ちいさい頃から「人の気持ちに立って行動しなさい」と教えられてはきました。
しかし、実際「人の気持ちになる」というのは、頭の中だけでは限界があります。
この本の舞台である「プロスペクトガーデンひたちなか」のように実際に体験してみなければ、わからないことは世の中たくさんあると思います。

コメント

  1. 須田@プロスペクト より:

    武田先生
    偶然、このブログを見つけました。
    先生が、こんな嬉しい感想を載せてくださっているのを拝見し
    胸が熱くなりました。
    感激です・・・!
    本当にありがとうございます。
    理事長も、先生のブログを拝見し、感激しておりました。
    武田先生にあと5冊、本を贈って差し上げて・・・!との
    申し出がありました。
    ご迷惑になるかもしれませんが、お送りしますので
    必要な方に差し上げてください。
    今後とも、よろしくお願いいたします。
    取り急ぎ、お礼まで・・・

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