林業少年
堀米 薫(著)
スカイエマのどこか懐かしい挿絵とともに昔の仕事というイメージの林業と真に向き合っている本。
2時間ほどで読めるボリューム。
『林業少年』は、『20世紀少年』のような漫画ではない。小説である。
農業以上にもうからないといわれている林業。林業を古くから営む大沢一家が舞台の家族小説だ。
主人公喜樹(きじゅ)は、小学5年生。高校3年の姉である楓(かえで)とともに今となっては珍しい土間のある天然木の家に住んでいる。
時代設定は、2000年代だ。喜樹は、友達とゲーム機で遊ぶような普通の小学生。ただ一つ普通と違うのは、祖父の庄蔵が林業を営んでおり、そのせいで喜樹の父と母が山にしばられている、ということだ。
母は自分が出来なかったことを娘の楓にたくしている。大学は英文科に進んで将来は海外で活躍してほしいと願っている。その母と結婚した喜樹の父正彦は、結婚する際、祖父の庄蔵から猛反対にあったらしい。
小学生の目を通してみる林業という仕事、庄蔵をはじめとする山の仕事師たち。
わたしはこの小説を読んで、取材は大変だったろう、と考えた。
生活や仕事の描き方がリアルだからだ。
なたの研ぎ方や道具の使い方。山の木の種類や特長を語る仕事師たちの言葉は、実際に見てきたように詳細に語られる。
百年ものの杉を切るときのシーン。切った杉を馬が山から運ぶシーン。森林組合の職員とのやりとり。林業の現実。
著者の経歴を見てリアルに描かれたシーンに納得した。著者自ら林業を営んでいるのだ。
個人的には、挿絵のスカイエマ氏の絵で漫画としても見てみたい気がする。
姉楓の進学をめぐって最後に一波乱がある。家族、そして守るべきものについて。
一家が出す答えが著者の願いなのだろう。
大沢一家が植えた檜は、50年後にはりっぱな檜林になる。
50年後は、この世にいない人もいる。
喜樹が心でつぶやく。
でもじいちゃんには、50年後の檜林が、ちゃんと見えているんだ。
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