本の感想:『何者』/朝井リョウ

面白かった本(小説)

読者は、主人公の大学生《拓人》と一緒に「ああこういう奴いるいる」などと最初は安全な場所から楽し気に眺めることが出来るはず。ところが雲行きが怪しくなってきて、最後に読者は主人公と一緒に崖から突き落とされる。

最後の最後に『何者』が何を意味していたのか明かされた時、心から戦慄を憶えるのだ。でも著者の朝井リョウは、読者を崖から突き落とした後、ちゃんとフォローしてくれる。きっと人間というものを信じているのだろう。最後に一筋の光明を示して終わる。

主人公は、就活をこれから始めようとしている大学生拓人。拓人は、同級生の光太郎とルームシェア中。その光太郎は、バンドボーカルをやっているおちゃらけているが、憎めないキャラだ。

物語の途中途中にTwitterでのつぶやきが挿入される。多くが登場人物たちのつぶやきだが、中には誰のつぶやきなのかか伏せてあるものがあり、それが『何者』という小説に引き込まれる要素になっている。最後の最後に『何者』が明かされる瞬間、読者は他人事だと冷静でいられるだろうか。

大学生の就活が舞台である『何者』は、朝井リョウ2012年の著作。
登場人物の紹介が、Twitterのプロフィールの形をとっていることから、2012年、すでにSNSが普及していたことがわかる。しかし決してSNSなどの最新の若者文化を扱った小説ではない。あくまでSNSは『何者』における道具として機能しているだけである。

冒頭、ルームメイト光太郎のバンド活動最後のコンサートシーン。主人公がある女の子と再会を果たす。どうやらその女の子はルームメイトとは何かありそうだ。登場人物同士の人間関係を匂わす形で冒頭から読者を物語の住人として引き込ませてくれる。読んでいて最初から最後まで気が抜けない

まあ、純粋に面白いということです。映画化されたのも頷けますね。

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