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本の感想:星を継ぐもの

本の感想:星を継ぐもの

星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン(著)
池 央耿(訳)

本書は最後の最後、一件落着かと思われた時、大どんでん返しが待っている。しかも正当な方法の大どんでん返しだ。
星を継ぐもの』のタイトルが頭を駆け巡る瞬間だ。この大どんでん返しは、本書最大の謎解きの答えでもあるのだが、そこにはロマンがある。SF小説ならではのロマンだ。ああ、そうだとしたら自分自身ワクワクしてくるなあ、というような。

『星を継ぐもの』は、1977年に原題「Inherit the Stars」としてアメリカで出版されたSF小説だ。
もともとSFとは、サイエンス・フィクション(=Science Fiction )を表す言葉である。つまりは、科学的な見地から空想した小説ということになる。『星を継ぐもの』は、そうした本来の意味のSF小説であることは間違いない。

「ハントがニュートリノ・ビームが個体を通過する時、原子核の近くである種の相互作用に影響され、通過後のビームに測定不能な変化が生じることを立証したのである」

などと言う記述がここかしこに登場する。
著者のジェイムズ・P・ホーガンは、科学オタクなのだろうか?ホーガンが、かなり科学に対する造詣があることは、本書の至る所から感じられる。

『星を継ぐもの』は、冒頭から少しの間、科学用語の嵐なのだが、心配はない。わたしのようにそうした科学分野に疎い人間でも本書は楽しむことが出来るからだ。有り難いことに読者はそんな言葉の意味をきちんと理解していなくても物語の本質を見失うことはないのだ。「中性子」「核分裂」「物質/反物質」などという言葉たちは『星を継ぐもの』の世界観を彩っているのであって、この物語のテーマは物理学者である主人公ヴィクター・ハントの謎解きにあるからだ

どんな謎か?
最初に登場する謎が、本書最大の問題提起であり、その謎に対する答えが読者の最終目的地となっている。
人類が月で発見したある死体から一つの謎が始まる。(ちなみに『星を継ぐもの』の世界では、月への旅行は一般的になっており、人類は月に基地を構え、ひいては木星の衛星ガニメデへの調査隊も派遣できるくらいに宇宙開発が進んでいる設定だ)

月で発見されたチャーリーと名付けられた死体を調べた結果、5万年前以上に死んでいたことが判明する。しかもその死体は宇宙服を身につけているのだ5万年前というのは、人類の祖先ホモ・サピエンスが登場した頃を指している。石器時代は、もっと後のこと(3万年前くらい)なのに、である。人類がまだ猿だった頃、なぜ宇宙服を身につけた人類と相違ない姿形をしたチャーリーが、月で死んだのか?世界中の科学者たちが総動員されこの謎解きに挑戦する。

SFっぽいと感じるのは、チャーリーが身につけていたものや持ち物からチャーリーに関するあらゆることが明らかになっていく点だ。生物学者は、生物学の見地から、言語学者や言語学の見地から、物理学者は…といった風に様々な角度から少しずつ明らかになっていく過程が謎解きをはらんでいて面白い。特に言語学からアプローチしてチャーリーの手書き文字から翻訳が進められる様や、生物学からチャーリーが地球の人類と祖先を同じくするという部分は本格SF小説らしく説得力がある

しかし、いずれの見解も1つの謎が解き明かされた時点で新たな一つの矛盾が生じるようになっていく。これを本書では、主人公ハントとハントと真っ向から敵対する意見の生物学者ダンチェッカーらのやりとりで表現している。本書は、人間模様を扱った小説でもあるかもしれない。とりわけダンチェッカーの敵対ぶりはキャラクターとしては、最高である。しかもダンチェッカーが魅力的なのは、主人公ハントとの関係が物語が進むにつれ変化していく様だ。きちんとした小説は、細かい点が優れているのかもしれない。

読者は、謎が更に別の謎を呼ぶ物語の展開と主人公ハントとダンチェッカーとの議論の応酬にワクワクして飽きることはない。長編であるが、先を知りたいという欲求に負けてついつい読みすすめてしまうのだ。

そしていやでも最初の謎に読者を舞い戻らせる。

なぜ5万年前の月でチャーリーは宇宙服姿で死んだのか?
チャーリーはどこから来たのか?

時間の関係性からその物語はありえないという設定はいくつかのSF小説でも登場する謎ときの1つである。この場合、手っ取り早いのはタイムマシンなる装置で時代をさかのぼったりすることだろう。(たぶん、わたしが書いたらそうなる)しかし、本書ではタイムマシンのタの字も登場しない。
著者のジェイムズ・P・ホーガンは、あくまで人類の科学技術の枠を超えない範囲で本書を描き切っている。この点が『星を継ぐもの』の爽快感だ。

勘のいい人なら、本書の半分過ぎあたりで、答えに行きつくのかもしれないが、わたしは最後まで(ハントが最後の仮説を述べるまで)分からなかった。これはある意味読者としては、最後まで楽しめたということだろう。(勘がにぶくて良かった!)

本書を語る上で、はずせないのは敵対するダンチェッカーのあくまで生物学者として謎解きにあたる姿勢と地球を周る衛星「月」の存在だ。特に「月」は本書の重要なキーワードだ。これ以上書くとネタバレになってしまうので抑えておくが、あえてヒントを書くなら地球と月どちらが先に存在していたか?ということだろうか。まあ、わたしならこのヒントを与えられてもさっぱり答えにたどり着かないが。

タイトルは良く知っているし、有名な本でもある。読めば絶対に面白いと分かっているのにこれまで読んでこなかった。
…そんな本がわたしにとっては『星を継ぐもの』だ。(なぜ読んでこなかったのか、わたしにも全く持って分からない)

現在、SFというジャンルは、多岐にわたっている。ミステリーなのかSFなのか分からないものも多数存在する。
本書は、SF小説の王道と言っても良いかもしれない。登場するキャラクターたちを通して著者は読者に「なぜなら」と説明をし尽してくれている気がするからだ

これは有名な話だが、本書が世に出るまで著者のジェイムズ・P・ホーガンは無名の小説家だった。
ホーガンの作品は、もちろん『星を継ぐもの』以外にも沢山あるし、評価もなされている。が、もしホーガンの作品がこの一冊だけだったとしてもわたしは十分に彼がSF小説界の未来に一石を投じたと考えていいと思う。
なぜなら、2019年現在の今日、読んで面白いと感じる小説だから。40年以上も前のSF作品なのに全く違和感がなくワクワク出来るからだ。

果たして『星を継ぐもの』とは何を意味するのか?ぜひ本書を手に取って確認してみて欲しい。

 

星を継ぐもの (創元SF文庫)

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