本の感想:子どもにマネーゲームを教えてはいけない

「子供の教育には、それぞれ適切な時期がある、ということを表しているのでしょう」
『三つ子の魂百まで』という諺をこう解釈している著者は「金融のプロ」というより、「まっとうな親」なのかもしれない。
子供にマネーゲームを教えてはいけない
キャシー・松井(著)
子供にマネーゲームを教えてはいけない (講談社プラスアルファ新書)
2008年に出版された新書だ。
新書は旬の話題を扱うものが多い。
当時話題の新書を何年後かに読むと時代遅れの感が否めないものもあるのだが本書は違う。
なぜなら本書はマネーゲームを扱った本ではなく、わかり易く書かれた教育論であるからだ。


著者名の横に「ゴールドマンサックス証券・マネージングディレクター」と書いてある。
一見すると「ああ、金融業界の人が株や投資について書いているのだな」と凡夫のわたしは思ってしまうが、本書の内容は「子供の教育はこうあるべき」について真面目に書かれた本だ。
実際マネーゲームのことはタイトル以外には登場しない。
著者のキャシー・松井自身が子供を持ち仕事をしている親であるため、とても謙虚な文章だ。
著者は冒頭でこんな風に述べている。

子供のときには、いえ、子供のときだからこそ、もっと学ぶべきことが、たくさんあると思います。たとえばそれは、「働くことの大切さ」である、「人を思いやり、助けようとする気持ちの大切さ」です。ですから、
「子供にマネーゲームを教えてはいけない」
これが、私の主張です。

「働くことの大切さ」は、小さいいつに身につけるべき、という著者の考えは、今現在小学生の子供を持つ親であるわたし自身も実践している事だ。
小学生のうちから働きに出させる訳にもいかない。小学生の仕事と言えば家の手伝いだろう。
小学1年生にだって食事で使った皿は洗うことができる。学校から持ち帰った上履きを自分で洗う。洗濯物をたたむ。アイロンがけだって最初はハンカチくらいから始めればできる。
我が家で子供たちに最初に教えた料理はインスタントラーメンの作り方だった。災害時に役立ったから。
家事をさせると子供はいやがるが、出来ると出来ないのとではのちのち雲泥の差になると思っている。
「宿題があるから」などと時に子供は家事を断ろうとするが、わたしは学校に通う子供が宿題や勉強をすることは当たり前だと思っているので、家事を免除することはない。極端な話、宿題より家事の方が大事だと思っている。
なぜ今自分が学校に通うことができて勉強ができる立場にあるのか、世界の中で学校に通っていない子ども達は日々何をしているのかを大人はきちんと伝えて行かなければならないと思っている。

本書の内容に話を戻す。
本書は「子供にまず始めに教えるべきこと」について書かれた本だが、難しい用語は登場しない。
著者自身が日本と海外の状況を行き来して知っているため、「ニート」が世界的な現象になっていることも指摘してあるなど、日本を一方向からではなく、様々な角度から眺めることができることも本書の特長だ。
著者の父アンディー・マツイは日本からアメリカに移住した農民であり、カリフォルニアでの蘭栽培に成功した人だ。大金持ちであるが、けっして贅沢をせず、子供たちにも贅沢をさせずに生きてきた人だ。
本書の大半は、アンディー・マツイについて書かれている。
「子供に対する教育」は、父から学んだことが大きいということなのだろう。
「子供たちには何も残さない」
とは父アンディー・マツイの言葉だ。
これ以上の教育は無いのかもしれない。
父から「働くことの大切さ」を教えられた娘(著者)が、これを日本語の文章に仕立て上げたものが本書なのだ。「金融や投資のハウツー」、「子供を成功者にするには」などの話が登場しない変わりに、父の農場で手伝いをした経験や塾に通っていないこと、小遣いをどう使ったかなどの話が具体的に書かれている。
結論としては、子供にマネーゲームや、パソコン、英語などを教える前にもっと大事な「教えるべきこと」が身近にあるでしょ、ということなのだ。
「自立した人」や「自ら考えて行動出来る人」が子供から大人まで少なくなった昨今、本書を読み実践する価値は大いにある。

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