本の感想:たったひとつの冴えたやりかた

面白かった本(小説)

たったひとつの冴えたやりかた
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア (著)
浅倉 久志(訳)

タイトルが秀逸。手に取ってみたくなる本だ。
15歳少女コーティと宇宙人とのファーストコンタクトを描いた表題作ほか2篇の作品が収録されている。
この作品の原作は1985年が初出であり、すでに名作とか古典とか呼ばれているような作品なのだが、読んでみての感想は、「ラノベ?」というくらい軽い文体だった。たぶん同年代の『星を継ぐもの』や『ハイペリオン』などよりはずっと読みやすい。しかし、軽い気持ちで読みはじめて各3作品の最後には極めて深淵な問いがなされているのが特徴だ。

わたしの悪い癖であとがきから読むことがあるのだが、正直この『たったひとつの冴えたやりかた』のあとがきには、驚きを隠せなかった。なにしろ作者のジェイムズ・ティプトリー・ジュニア(ちなみに女性)はすでに故人で、夫を拳銃で殺害し自らも頭を撃って命を絶っていたのだった。詳細は、あとがきにゆずるが、この死に際は、本作の中に共通して流れているテーマと無縁ではないのだと本書を読んで感じた。

本書には、3作品収録されている。

以下、各タイトルと感想。

『たったひとつの冴えたやりかた』

少女と宇宙人、このシチュエーションにちょっと興味をそそられた。主人公のコーティ・キャスは宇宙大好き少女。15歳の誕生日に買ってもらった宇宙船で一人旅する先に待ち受けていた宇宙人とのファーストコンタクトは、予想外の姿かたちをした宇宙人だった。この宇宙人の特質のせいでコーティは、最終的にある選択を迫られる。この選択は、果たしてたったひとつの冴えたやりかただったのか。考えさせられる命題であり、悲しさとともに少女コーティから勇気をもらう作品でもある。

『グッドナイト、スイートハーツ』

主人公レイブンは回収救難官(燃料切れや、不具合が発生した宇宙船の手助けをして生活の糧を得ている仕事)として一人宇宙を旅している。今回彼が手助けすることになった宇宙船マイラⅡ号に居合わせた女性は彼がかつて愛した女性だった。
この作品では、現代でも時々問題となっているクローン技術が登場する。恋人とクローン。ここでも主人公は最後にある選択を迫られる。ヒントはスイートハーツ。ハートではなくハーツである。過去の思い出とともに今を生きる人間には、新しい技術に対して経験則が成り立たないことを痛感させられる。とにかくスリリングな展開。SF映画にしたらかっこいいであろう描写がここかしこにある。

『衝突』

文化や住む場所が違えば価値観も違う。それをさらに宇宙レベルに広げた作品。
ここでは、人間をあらわすヒューマンという人種が存在する。そのヒューマンが最初に出会うジーロという別惑星の種族とのファーストコンタクトを描いている。相手が人間でないため、言葉の壁だけでなく、生活環境(生活に必要となる星の大気の違い?)がある。このあたりは想像力豊かに描かれている。特に人間の吐き出す二酸化炭素や人類にとっては恵にもなる雨などのとらえ方が、この作品ポイントにもなっている。コンタクト相手のジーロは、ヒューマンを別の惑星から来た殺戮を繰り返す人種と勘違いしている。意思疎通の難しさがあって、なかなか相手に伝わらない。原文を読んだわけではないが、そのあたりの意思疎通の難しさの描写部分の翻訳が見事だ。

本の構成の面白さ

どの作品も最後に主人公に選択を迫るシーンが待っている。そう踏まえて考えると『たったひとつの冴えたやりかた』というタイトルは秀逸なのである。本書は、どこか透明な感触をまとっている。タイトルだけでなく本書の構成にあるのかもしれないと思う。3作品全てが、同じ宇宙を舞台にしており(連邦基地900、リフトなど特定の場所をあらわす地名が共通に使われている)、宇宙旅行に必要な冷凍睡眠やメッセージパイプ(宇宙を行きかう通信用の小型ロケット)などの技術が登場する。加えて、3つの話は全てこれらの宇宙世界を舞台にした遠い過去の話として描かれているのだ。この3作品を結んでいるのは、冒頭に登場するある宇宙の大学図書室に勤務する老司書と本を借りに来た若い学生カップルとの会話。

本書の構成を時系列に表すとこうなる。

    3つの話はどれも熱気があり考えさせられる作品だ。しかし、著者は読者に対して作品にいたずらに入り込むことなく、少し冷めた視点で見てもらうよう意識的に仕向けた構成にしたのではないかと感じた。“全てはこの宇宙で起きた遠い過去の話だよ。いつかは君の人生もこんな感じでどこかの星の図書館に人目にもつかず置いてあるかもね”と。

    第1話の主人公コーティ・キャスが実際に口にするセリフ「これがたったひとつの冴えたやりかた」は、自分でも言ってみたいセリフだと思うのはわたしだけだろうか。

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