イスラエル 人類史上最もやっかいな問題
ダニエル・ソカッチ(著)
鬼澤 忍(訳)
パレスチナとイスラエルはなぜ常に争っているのか?本当のところを知りたい、という方がまず読んでみるべき本だと思う。
杓子定規なニュース解説ではつかめない長年にわたるパレスチナとイスラエル問題を自ら考え意見を出すことができるようになる。あるいはパレスチナ・イスラエル問題を他人に説明できるようになるくらいの知識を得ることが本書の目的らしく、それはほぼ達成されているように思う。
パレスチナとイスラエルの問題は、通常アラブ人とユダヤ人の問題に置き換えて議論される。
ちなみに著者のダニエル・ソカッチはユダヤ系のアメリカ人。
2国間の争いを語るには、まず中立であるべきだ。しかし、著者がユダヤ人に近いとなるとイスラエル寄りの意見が多い本なのではと勘ぐってしまうが、全くそんなことはない。徹底して中立的な意見が積み重ねられていく。
特に歴史に関しての本書の中立的で圧倒的な情報量は、このパレスチナ・イスラエル問題を正しく理解するうえで貴重だと思う。
本書は2部構成である。
前半の第1部が、ここまでの歴史に関する記述となる。この歴史が詳細で、なんと聖書の中身である紀元前までさかのぼって語られている。(というより、紀元前までさかのぼらないとパレスチナとイスラエルの問題は分からないとも言える)
後半の第2部ではアメリカとイスラエルとの関係性など、気になる論点ごとに沿って語られる。
わたしが本書を読んで一番良かった点は、パレスチナとイスラエルのどちらが正しいか白黒つけることが間違ったことだと理解できた点だ。
わたしみたいな凡人ほどパレスチナとイスラエル2国間の問題に白黒つけたがる。
しかし、それは問題の解決には程遠い行為となってしまうということが分かったのだ。
イスラエル建国の父といわれるベン=グリオンが首相時代に語った言葉が印象的だ。
(パレスチナ人に対して)彼らが目にしているのはただ一つ。われわれがこの地にやってきて、彼らの國を奪ったということだ。
こうした認識(パレスチナを占領したという)は、現イスラエル民のどれ位がもっているのだろうか?
本書でも何度か紹介されているが、ベン=グリオンはこうも述べている。
第一にイスラエルはユダヤ人が多数を占める国家である、次に、イスラエルは民主主義国家である。最後にイスラエルは新しい占領地をすべて保有する。イスラエルはこのうち二つを選ぶことはできるが、三つ全部は選べない。
イスラエルが、この3つを選ぼうとすると1つは自動的に消え去る運命、ということだろうか。
本書は、2023年10月7日におきたハマス(パレスチナの武装組織)のイスラエル襲撃以前の2023年1月に発行された。
現在、イスラエルは自衛のための反撃として、ハマスの拠点であるガザ地区に集中的な攻撃をしかけている。パレスチナの民間人を含めた死者は、1万人をこえた。
一体パレスチナとイスラエルで何が起きているのか?それがどう世界に日本に影響するのか?
自分で読み解く上で本書はまず手に取るべき入門書の一冊かもしれない。
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