2020年に読んでの感想
『処刑』は、この記事を書いている2020年からすると60年ほど前の作品になるのだが、現代でも違和感なく読めるというのも星新一の凄さだろう。
舞台は地球が青い星として見えるぐらいの距離にある赤い星。
地球では、文明が進んで、AI(とは本書には書いてないが最近だとこの方が分かりやすいのでAIとさせてもらう)によって犯罪者の判決も言い渡されるようになった社会。要するにコンピュータが人間の生死までをも決定する社会となっている。赤い星は、地球での殺人犯たちが、処刑として島流しならぬ星流しにされる場所なのだ。
主人公が、赤い星に降り立つ所から物語は始まる。主人公は殺人を犯した犯人である。赤い星に来る人間(犯罪者)には、銀の玉が与えられる。銀の玉にはボタンがついていて、押すと水が出る仕組みだ。なぜ水かというと、この星には水がないからだ。赤い星は乾いている。そしてボタンは人間が押さない限りは動作しない。しかも場合によっては、押した瞬間に銀の玉30m四方が吹っ飛んで粉々になる事もある。つまり処刑されるということ。設定が秀逸なのは、この銀の玉が「いつ」吹っ飛ぶかは誰にも分からないということ。
主人公含め、この赤い星の住人は、いつ来るとも分からない死に対して怯えながら日々を過ごしていくのだ。
わたしは半分くらい読んだところで、オチが分かった気がした。
ところが、である。読者の期待のオチとはならない所が星新一なのだ。最後の最後にどんでん返しは、赤い星で暮らす主人公の心の変化だ。
最後の1ページで、主人公が気づく「あること」は、日々を生きるわたしたちが「ハッ」と気づく事でもある。
実は、読んでいる最中、わたしは小説のタイトルに注意を向けていなかった。タイトルをろくに見もせず読み始めたからだ。読み終えた後、この小説のタイトルを『処刑』だと知って「ああ、そういうことか」と妙に納得し、人生が愛おしく感じたのだった。
補足:『処刑』の収録書籍
星新一の『処刑』は、多分高校生の時、一度読んだはずだが、覚えていなかったらしく再度読んで改めて凄い内容のショートショートだと感じた。
『処刑』は新潮社の文庫本「ようこそ地球さん」に収録されている。ただ、わたしが、最近読んだ『処刑』は、出版芸術社から刊行されている「日本SF全集1」の冒頭に収録されているもの。内容は同じだが、こちらは全集とあるだけあって、分厚い本だ。小松左京、筒井康隆、眉村卓、平井和正、半村良、都筑道夫...そうそうたるメンバーの短編が収録されている価値ある単行本。
ちなみに「ようそこ地球さん」に『処刑』とともに収録されている『殉教』も生と死を扱った作品として秀逸だ。一読の価値あり。
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