へたも絵のうち
熊谷守一(著)
画家である熊谷守一との対話を本にしたものである。
熊谷守一の心は、本書のタイトル『へたも絵のうち』に集約されると思う。
表紙の「猫」を見て、ああ猫だ、と思った。肩のもりあがりからお腹にかけての感触。
猫をよく観察していないとこうは描けない。
熊谷守一は昭和52年(1977年)に97歳で没した。
『へたも絵のうち』は、昭和46年に日本経済新聞社に「私の履歴書」として連載されたものをまとめたものだ。
文庫本にしては、定価の1100円は高い。しかし、本書を読んで熊谷守一を知り、彼の絵を知り、生涯にわたる物事に対しての眼差しを知ると1100円はけっして高くないと感じた。画家の本だからと高をくくって読んでみたら、面白かった。
何が面白いのかと言えば、例えばこんなくだり、
「どうしたらいい絵がかけるか」 と聞かれたときなど、私は 「自分を生かす自然な絵をかけばいい」 と答えていました。 下品な人は下品な絵をかきなさい、 ばかな人はばかな絵をかきなさい、 下手な人は下手な絵をかきなさい、 と、そういっていました。 結局、絵などは自分を出して 自分を生かすしかないのだと思います。 自分にないものを、無理になんとか しようとしても、ロクなことにはなりません。
本文より
画家という眼を通して自然に物事を見ている気がする。
わたしはとりわけ<絵の流行>について氏が語った部分が好きだ。
絵にも流行があって そのときの群集心理で 流行に合ったものはよく見えるらしいんですね 新しいものが出来るという点では認めるにしても そのものの価値とはちがう やっぱり自分を出すより手はないのです 何故なら 自分は生まれかわれない限り 自分の中に居るのだから
本書には、いくつかの絵が収録されている。晩年になると表紙の『猫』のようにシンプルな線と塗りで描かれている。簡単にサッと描いているように見える。実際に熊谷守一が簡単に絵を描いていたかどうかは知らないが、描く時間以上によく観ていたんだろう。
わたしも、こんな風に自然と自分の作品や言葉が出るようになるなら理想の人生だと思う。
コメント