ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人
中山七里(著)
「お父さんが悪い医者に殺された」という警察への子供からの一本の電話から物語は始まる。
いわゆる殺人ミステリーものかと思いきや、その判断はすぐに裏切られる。
考えさせられるのは、主人公の刑事犬養隼人が追いかける犯人「ドクター・デス」は、舞台が日本だから犯人として成り立っている点だ。
ドクター・デスは、命が助かる見込みのない末期の病人やその家族から依頼を受け、安楽死を請け負う。これは日本では、自殺幇助として犯罪となる。
事件を追うにつれ、犬養らはこの事件への違和感に気づく。
安楽死させられた本人や家族はみな犯人であるドクター・デスに感謝しているからだ。
「目の前で苦しんでいる人」が、愛する人や家族だとしたら、「楽に死なせる」ことへの誘惑は多かれ少なかれあるのではないか?
これを殺人事件と考えるべきか?という葛藤は、主人公だけでなく読者であるわたしたちにも迫ってくる。
安楽死は、スイスやアメリカの一部の州などでは、合法となっているが、日本では犯罪として扱われる。
本書は、実際の事件を下敷きにしたミステリーだ。
当然、最後にはどんでん返しが待っている。
しかし、ラストでの事件解決とは裏腹に、読み終えてなお「人が死ぬ権利」について考えてしまう稀有な小説でもある。
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