300字小説「努力」

長崎瞬哉(詩人)
努力

日本でサッカーワールドカップが開催された年。
私は妻が抽選で当てたワールドカップのペアチケットで、運よくサッカーワールドカップ観戦ができた。

アルゼンチン対ナイジェリア戦の試合内容は、ほとんど私の記憶にない。
しかし、スタジアムに向かう途中、プラカードを持った一人の若い女性のことは鮮明に憶えている。

宗教勧誘のようだった。
女性は「このままだと世界は終わる!」と大声で叫んで、チラシを配っていた。
ワールドカップの熱気とはまた違う熱気をその女性はまとっていた。

スタジアムに向かう群衆の流れの中で、女性は一人取り残されていた。

あれから20年が経つ。
きっと女性の努力が実ったのだろう。いまだ、世界は終わっていない。

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