巨人たちの星
ジェイムズ・P・ホーガン(著)
池 央耿(訳)
銀河を舞台にしたSF小説として単純に面白い。
また恒星間移動する宇宙船《シャピアロン号》や全知全能の神みたいなコンピュータ《ヴィザ―》の描き方に説得力がある。ちんけなSF小説ではないことは確かだ。
SFの名作「星を継ぐもの」からつながる3作目が本書「巨人たちの星」である。
本書には、《ゾラック》や《ヴィザ―》といった名称のAIが登場する。
ちなみに物語の中ではAIという言葉は登場しない。なぜなら、本書は40年以上前の作品だからだ。
《ゾラック》や《ヴィザ―》は、現代風に言うならAIエージェントだろう。
人の命令に答えたり、提案したりするコンピュータプログラムだ。ただし「巨人たちの星」でのAIエージェントはその範囲が宇宙規模に拡大されている。
登場人物たちは、ゾラックやヴィザ―のAIエージェントに対して
ゾラック!木星にいる〇〇を呼んでくれ
などと口頭で命令する。
銀河系をまたにかけ、情報や人が瞬時にスクリーンに表示されたり、目の前に現われたりする。
しかも人の命令をただ実行するだけでなく、「その方法では確率は5%です。それなら〇〇とするのではどうですか?」などと提案してくれる人間の良き相棒コンピュータとして描かれる。
ちなみに本書の日本語訳は、初版が1981年となっている。
これを踏まえてこのSF作品を読むと当時の自分がこの物語を理解できたのか疑わしい。
ChatGPTのような生成AIサービスが利用できるようになった昨今なら、本書に登場する《ゾラック》のようなAIエージェントは感覚的に理解できる。
でも40年以上昔、わたしがこの物語にふれていたら理解できていなかったような気がしている。
本書に登場する異星人ガニメアンは、科学技術の面で地球人を遥かに凌駕する。
だからといって、ガニメアンに地球人が侵略されるというありきたりなSF話ではない。ガニメアンは争いを好まない人種として描かれている。しかも地球人種のよくある行動の一つ、《言葉とは裏腹の行動》が全くガニメアンには理解できない。智謀、策略の類がない異星人なのだ。
J・P・ホーガンは、1作目の『星を継ぐもの』でわたしたちはどこからきたか?の答えを提示し、2作目の『ガニメデの優しい巨人』で地球人種の愚かさを明らかにした。
3作目の『巨人たちの星』ではSFという形を借りて地球に住むわたしたちの課題とは?に目が向けられている。
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