実は一人の個人の小さな詩から戦争がはじまるのが現代なんだよ – 三島由紀夫「美しい星」

面白かった本(小説)

SF的制約から自由であろうとした小説

みんなは集団化と画一化の果てに戦争がはじまるように思っているが、実は一人の個人の小さな詩から戦争がはじまるのが現代なんだよ。

『美しい星』より

三島由紀夫が1962年に発表した『美しい星』(新潮文庫版に収録)は、自分たちが他の天体からきた宇宙人であると突如目覚めた家族の物語である。

円盤を見た父親の大杉重一郎が、突如自分が火星人であることを自覚し、それが一家に伝染していく。一見SF小説っぽい設定ではあるが、「美しい星」は、SF小説とは違う。
妻は木星人、長男は水星人、長女は金星人とてんでばらばらに一家が自覚していく過程や、円盤が突如飛来したりと空想科学ではとても説明がつかない要素が多いからだ。これを踏まえて解説者の奥野健男は、「美しい星」は、SF的制約から自由であろうとした小説、と述べている。

宇宙人は地球人類を客観視するための手法

小説家が自身を客観視して物語を紡ぐように、三島由紀夫は小説「美しい星」を使って、宇宙人を通し地球や人類を客観視して描いたのだ。

父親の重一郎が、家族に対して「お前たち、私たちが宇宙人だとばれないように、地球人らしくふるまいなさい」などと言ったり、傍からみればへんてこりんな一家を描いた小説だが、中身は「政治」、「国家」、「戦争」、「平和」を大真面目に取り上げている。

世界平和を目指す大杉重一郎の一家。それに対抗する勢力として、世界滅亡を目論む羽黒助教授の一派が登場する。
後半、大杉重一郎と羽黒助教授が、それぞれの立場から人類の運命に対する論争を展開する様は圧巻である。著者三島由紀夫の考えが凝縮されているような部分だ。セリフ回しは軽いが、その言葉は重い。

また敵役ながら地球滅亡を賛美する羽黒助教授の言葉は、黒い言葉ながら的を射ていると感じるのはわたしだけだろうか?

「平和は一昨日おととい来るだろう。約束の時間に遅れてね」

「火葬場は要らない。火葬場商売は上がったりだ。地球全部が火葬場になるんだからね」

人類の根源的なテーマを軽い筆致で描いた三島由紀夫の「美しい星」。
現代社会あるいは世界を考える時、一つの論争の火種を今も提供し続けている。

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