90分で読む! 超訳「罪と罰」
ドストエフスキー(著)日比野敦(訳)
この本を読んだら、「罪と罰」ってこの程度なのかと、原作の「罪と罰」にふれる機会を失ってしまう人が出てきそうだ。
「罪と罰」は本来は長編小説だ。
原作を翻訳した本が、異なる訳者により2巻あるいは3巻のセットでいくつもの出版社から出ている。
これを1巻にまとめたのが、90分で読む! 超訳「罪と罰」というわけだ。
わたし自身は、「罪と罰」の訳者が違う原作をこれまでに2種類読んでいる。そうしたことをふまえて正直に言うなら、この本は読まない方が良い。
冒頭の主人公が殺人を犯すところまでは、原作の雰囲気が出ているように感じたが、そこから先は物語を短くし過ぎた弊害が顕著だ。
ラズミーヒンが突然主人公の看病していたりするし、なんで今こんな状態なんだ?というシーンが多々ある。「罪と罰」の主人公ラスコーリニコフの幾多の場面における微細な心の上がり下がりを読者は感じることが出来ない。原作に終始流れる不安感も感じられない。
超訳というのは、跳躍しすぎた話という意味か。
冒頭に、この本を読んで良かったら、ぜひ原作も読んでみてください、と書いてあるのも残念な気持ちになった。むしろこの本を読むと「罪と罰」ってこの程度か、となって原作に向かわない人が増えそうな気がする。
「罪と罰」は急いで読むような本ではない。それこそが罪である。
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