闘うプログラマー ~ビル・ゲイツの野望を担った男達~
G・パスカル・ザカリー(著)
山岡 洋一(訳)
副題が「ビル・ゲイツの野望を担った男達」となっているのはもったいない。なぜならこの本には「女達」も登場するからだ。(多くはないが)
「この人たち本当にコンピュータやプログラミングが好きなんだ。しかも家族や生活は二の次なんだ」と肌で感じられる本。かといって冷たい印象が残るわけではなく、むしろ「仕事ってここまで真剣にやると凄いことが出来るんだ」と感動する本。伝説のプログラマーことカトラーが放つ仕事に対する言葉も印象的だ。
この本は膨大なインタビューを元にマイクロソフトでWindows NTというOSを1から開発した人々の記録だ。
Windows NTというと「何それ?」という人も多いだろうが、現在世界中の多くのパソコンで利用されているWindows 10は元を正せばWindows NTが始まりだったのである。
ちなみにWindows10は、NTのバージョンで言うと NT10.0 となっている。
わたしが読んだ本は上下巻のセットだったが、現在は1冊の本として売られているようだ。かといって読みにくいこともなく1日2日で読める量だ。わたしは先が知りたくて2日で読んでしまった。
伝説のプログラマーことカトラーをはじめマイクロソフトCEOビル・ゲイツも登場する。登場人物が多く、見出しに載っている登場人物の説明書きをちらちら確認しながら読み進めることになる。しかし、主要な登場人物に限れば5名くらい。なんとかなる。それよりもなによりも登場人物たちの個性が全員が全員強烈だ。特にWindows NTの開発リーダーであるカトラーは超がつくほど個性的な人物だ。人間的に尊敬できない部分も沢山あるのだが、それを補うほど仕事に対する考え方や行動は見習うべきものが多い。
登場するマイクロソフト社員の働き方を見ていると日本の高度成長時代のモーレツ社員もこんな感じだったのかなあ、と考えてしまった。とにかく長時間よく働く。そのせいで家族と不仲になったり生活が乱れたりしている社員も多く描かれている。(この部分はよくここまでインタビューしたものだと驚きである)
インタビューを元に構成されているためセリフが多い。ただしコンピュータ用語やプログラミング用語も多い。プログラムのソースコードも何度か登場する。コンピュータに興味がなく、プログラミングを少しもかじったことがない人が読むにはむしろ苦痛だと思った。逆に言うとプログラミングを少しでも知っていたりすると非常に興味深く読めるに違いない。例えば、DOSやOS/2、カーネル、コンパイル、ビルド、ファイル形式、GUI、CUIなどといった言葉を少しでも知っていると新鮮な驚きがあり面白い。
本書に登場する個性的なそして仕事に真摯な人たちが作り上げたOSの流れを受けたWindows10のパソコンを使ってこの文章を書いていると思うと感慨深い。
以下、印象に残った言葉
バグを取れ。カトラーが考えていることは、ほとんどそれだけだった。どういう欠陥があって、周囲の人たちを傷つけることがあるにしろ、普通の生活のなかで仕事への集中をさまたげるものを片っ端から封じこめられるからこそ、すばらしい仕事ができる。普通の人たちに偉大な仕事ができないのは、めったにない仕事にとりくんでいるときですら、日常の習慣にとらわれているからである。月並みな仕事しかできないのは、才能がないからではない。意志に問題があるからだ。カトラーはそう考えている。この段階にきて、カトラーはチームの全員がたったひとつのことに注意を集中するようもとめていた。たったひとつのこと、それはバグである。
「プログラミングの呪文はまったく正確でなければならず、ひとつの文字、ひとつの空白がちがっているだけで、魔法はきかなくなる。人間は、完璧な仕事をすることには慣れていない。そして、人間の活動のなかで、完璧さを要求されるものはほとんどない。完璧さという要求にあわせていくことが、プログラミングを学ぶにあたってもっともむずかしい点だと、わたしは思う」
フレデリック・ブルックス/コンピュータ科学者
コメント