これは一理ある、と思った。
倹約と幸福
新宮秀夫(著)
極端なまでにわたしたち地球の民に対し『倹約』をすすめるのが本書である。
副題に「エネルギー・環境問題解決への道」とあるが、決してある方策を打ちだして昨今の原発問題に代表されるようなエネルギーと環境問題を解決へと導こうといった内容が本書の主旨ではない。
『倹約』こそ『幸福』につながる、といった結論づけをするため、あらゆる方向から人類のこれからの生き方の方針を変えさせることこそ本書の主旨である。
結論は最初に書いてある。
はじめにより
エネルギー大量消費の技術を知ってしまった人類が存続する道は、倹約による以外にはない。自然破壊は人類の存亡にかかわる問題なのである。
「倹約」以外はない、と言い切ってしまっている。
その理由は…ということで全30話からなる話から「倹約が幸福のもとになる」理由を探っている。
第6話の「ストレスは健康のもと」が逆転の考え方が記されており、面白い。
宇宙飛行士が無重力状態にながくいつづけることが困難な理由は、重力が筋肉を作ってくれているということから、
我々は、いつも体が重いのは厄介だと思っているけれども、それが厄介であること、つまりストレスがあって不愉快であることこそ、体を健康に保てるように自然が設定したうまい工夫なのである。
わたしが普段から思っていた矛盾に対して専門用語を用いて明確な文章にしてあると思ったのは、第9話だ。
オクシモロン(撞着語法)という言葉を使って説明してくれている。
【撞着】(どうちゃく)という言葉の意味を辞書で調べたら「つきあたる」とか「ぶつかる」といった意味だった。
著者は「安全運転」という言葉を例にとってこれを説明している。
本来「運転」という行為は、「危険」な行為であって「危険ゼロ」の状態ではないと。だから、「安全運転」の言葉の意味をとって抜き出せば「安全危険」になり矛盾が生じる。ただしこの「安全運転」を使うことにより「運転は危険な行為である」といった運転に対しての危険性を忘れさせない効果がある、と。
わたしは「エコカー」がこれにあたると思う。
こうした話がどう「倹約は幸福につながる」に通じていくのかは、本書を読んで頂きたいが、どの章もきちんと最後には「倹約は幸福につながる」と結論づけられる。
著者の豊富な古今東西の書や哲学の知識を持ってすると、やや強引なこの結論も読んでいると納得してしまうから不思議だ。
本書は誤解をおそれずに言えば「やや宗教じみている」のだが、面白い本だ。
あとがきに至っても主旨は変わらず、「世間では、技術の進歩のおかげで今、物質的な豊かさが実現しているかのごとく言われているが…」と最後まで壮快な文章だ。
個人的には本書で紹介されている過去の文献の豊富な引用や書の紹介がとりわけ気に入った。
次のような文献が目に留まった。
大正末期から昭和初期に小学生や中学生向けに発行されていた雑誌「赤い鳥」(「青い鳥」は幸せの象徴だが「赤い鳥」はどんな意味があるのだろう)に北原白秋が選者として投稿された詩。
つゆ「松の葉に、つゆがたまっていたよ。おちたよ、また、ふくらんだよ。」
富山県氷見郡神代小学校尋常科五年 北 たま
このような雑誌が現代に残されているだろうかと思った。
その他には60年も昔の小学校の教科書にのっていた「ラジョ・ハラナン」の話などなど。
本を読む楽しみは、こうした本や文献が紹介されていて、またそれに興味を持つきっかけになることにもあると思う。
本書には「負の遺産」という言葉が頻繁にでてくる。未来にわたしたちは「負の遺産」を残して生きているという意味で。
遺産には負の側面もあるのだと改めて感じた。
コメント