アントキノイノチ
さだまさし(著)
さだまさしの本を読むと、ふだん見過ごしている『生と死』について考えさせられる。
感動する本を読んだ後、わたしはいつも思うことがある。
「これは絶対に自分には書くことが出来ない」
ということだ。
わたしはわたしの人生しか生きていないのだから、わたしが書くことが出来るのは、その感動した本とは異なる話だ。
どんな本にもどんな作品にも作者本人の魂が入っている。
魂が宿っているというべきか。
現実にある「キーパーズ」という遺品整理業を営む会社がモデルとなったこの小説には、心に病を持ち日々自分自身と格闘する若者が多く登場する。
その一人でもあり、主人公でもある永島杏平(ながしま・きょうへい)が心の中でつぶやく言葉が秀逸だ。
もっとも、鬱というなら現代人のほとんどが鬱で、さもなければ逆に躁だと思う。この不公平で、歪んだ世の中で人生を歩もうとすれば誰でも躁と鬱とを螺旋状に往復して、それを繰り返しながら必死で心のバランスを保とうとしているのじゃないか、と思う。
主人公の杏平が慕う職場の先輩佐相さんが放つ言葉は、著者さだまさし本人の魂の言葉だろうか?
『孤独死』について佐相さんが杏平に語るシーンがある。『孤独死』の<孤独>という言葉についてだ。
さだまさしが、言葉を大切にしているシンガーソングライターであることを改めて感じさせる。
物語の最後に本書の題名でもある<アントキノイノチ>の意味が明かされる。
佐相さんのセリフ、
「仏さんを助けに行こう」
が格好良く胸に響く。
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