本の感想:Nのために

Nのために
湊かなえ(著)

Nのために (双葉文庫)

あの人のためについた嘘は、果たしてあの人のためになっているのだろうか。

イニシャルに「N」とついている人物が6人登場する。
Nが誰を指しているのか最後に明らかになる。

主人公はやはりイニシャルにNがある人物「杉下希美」だ。主人公の視点で物語が語られるかと思いきや、ここは著者湊かなえの得意技である登場人物それぞれの視点で物語が構成される。

杉下希美が親しくしていた野口夫妻の殺人事件から物語は始まる。
お金持ちの野口夫妻(こちらもN)と貧乏アパートに住む主人公杉下希美との接点、なぜか殺人現場に居合わせた主人公と同じアパートの住人たちとの関係が冒頭に語られる。
それぞれが、Nというイニシャルを持っている。

本書で主人公杉下希美は、究極の愛とは、『罪の共有』だと言う。
どうやら『罪の共有』を、<Nのために>しているようだ。
しかし、読み進めるうちに気づくことがある。
罪の共有をして愛だと考えているのは、実は読んでいるわたしたち自身ではないかと。
誰もが人には言わない(言えない)秘密をもって暮らしている。それは親しい間柄でもだ。誰かのために(誰かを守るために)秘密にしていることって、人は多かれ少なかれあるんじゃないだろうか。家族、恋人、クラスメイト・・・

高校時代のクラスメイト成瀬慎司は、主人公杉下希美を初恋の女性とする。
この二人のエピソードがもの悲しい。杉下が持ってきた詰め将棋(この物語において将棋は一つの重要な鍵となっている)を成瀬が授業中に解く。すると後にいる杉下が<す・ご・い>の意味をこめて、シャープペンをカチカチカチと3回鳴らすのだ。音の回数が4回のときと5回のときがあった。このときのお互い解釈がすれ違う。

カチカチカチカチカチと鳴った意味が、<あ・り・が・と・う>でも、<バ・カ・ヤ・ロ・ウ>でも、若かりし二人には大した違いではなかったかもしれない。
それでも、そんな些細なすれ違いが人生を形作っていることに本書を読んで改めて気づく。

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