本の感想:鬼人幻燈抄(きじんげんとうしょう)

面白かった本(小説)

鬼人幻燈抄 葛野編 水泡の日々(かどのへん みなわのひび)
中西モトオ(著)

鬼人幻燈抄について

鬼人幻燈抄は「小説家になろう」という小説投稿サイトに2015年~2016年にかけて連載された長編小説の書籍化第1弾。

「小説家になろう」では著者はモトオを名乗っているが、書籍版では中西モトオである。

すでにWeb上での連載は終えて物語は完結している。

鬼人幻燈抄
残酷な描写あり 伝奇 怪談 江戸 刀 鬼 明治 歴史 幕末 妖怪 怪奇 和風ファンタジー 大正 昭和 花街 都市伝説

物語は葛野編、江戸編、幕末編、明治編、大正編、昭和編、平成編と7つに分かれており、本作葛野編は物語の冒頭部分であり書籍では第1巻にあたる。それ以外には番外編もある。順当に書籍化されていくと全10巻前後といったところか。

小説の出だしから引き込まれる小説と、読み進めていくにつれて引き込まれる小説とがある。本作は前者だと思う。

「行くところがないんなら、うちにこないか?」

鬼人幻燈抄 葛野編

身寄りのない幼い兄妹に対して、軽い感じでこんな言葉を掛けてくる大人がいたら怪しいだろう。
不穏な形で物語は進められる。つかみはOKである。

物語の時代背景

江戸から平成までの長い物語の冒頭にあたる「葛野編」は江戸時代末期、いわゆる幕末が舞台だ。
天保11年といっても歴史の弱いわたしにはピンとこないが、遠山の金さんの時代と言えばなんとなく理解できる。まだ刀を持った侍がいた時代だ。(ちなみに茨城の水戸にある日本三大庭園の一つ偕楽園はこの頃に作られた)

登場人物たちと「鬼」

主人公は冒頭で怪しい男から声を掛けられた甚太(じんた)という5歳の男の子。
甚太は1歳下の妹鈴音(すずね)に辛くあたる父親から逃れるため、妹と2人家を出たのだ。甚太たち兄妹は、声を掛けてきた男の家に連れていかれ、男の娘である白雪(甚太の1つ下)と出会うことになる。

甚太、鈴音、白雪。3人を中心として物語は進んでいく。
もちろんタイトルにもある通り鬼も存在する。鬼や物の怪たち魑魅魍魎が跋扈する世界。それが鬼人幻燈抄の世界だ。甚太は成長し、鬼と対峙することになる。

「鬼」という存在は、日本の昔話や昨今の人気アニメでも登場するメジャーな悪役だ。
メジャーな悪役だけに描かれ方も千差万別。鬼の描き方の特徴がそれぞれの物語にはある。本作に登場する鬼もまた一味違う悪役ぶりを放っている。

甚太と後々対決することになる巨躯の鬼は初対面の甚太に対してこんなことを言う。

『さて。しかし一つ言っておこう。鬼は噓を吐かん。人と違ってな』

わたしとしては、このセリフ本作での設定と受け止めた。

甚太の鬼に対する逡巡はわたしたちに深く考えさせるものがある。

人を殺すのが鬼ではなく、結果人をころすことになろうとも目的を果たすまで止まれないのが鬼だという。

本作には他にもところどころに「人」と「鬼」とが対峙する場面がある。
どれも含蓄がある言葉で綴られており味わい深い。

書籍版にある仕掛け

書籍版には一つ仕掛けが施されている。
表紙カバーには主人公の甚太と白雪、鈴音の3人が描かれている。わたしは何気なしに表紙カバーを外してみた。読み終えてから表紙カバーを外したわたしは「あっ」と唸ってしまった。

ここで詳しくは書けませんが、読み終えた人は良く分かり、泣けてきます。

主人公甚太の目を通した「人」と「鬼」の物語

まだ第1巻を読み終えただけだが、この後に続く江戸、幕末、明治、大正、昭和、平成編への期待が高まる構成と筆致だった。

表向き雰囲気とは別にその裏での人間性も描かれていて、登場人物一人一人に感情移入できる点も見事だ。
感情移入できるという点で圧巻は妹鈴音だろうが、村の長やその息子清正などは最初いやな奴として描かれているのに最後にはなぜか感情移入してしまう。
話の構成が上手なのだ。気軽に読み始めても本気で読んでも損はない作品。しかもこれがWeb上では無料で読めるとは!作家も商売上がったりではないだろうか。

鬼の言葉が甚太と読者であるわたしたちの心を駆け巡る。

『ならば、今一度問おう。お前が守るべきと誓ったもの、それに守るだけの価値がなくなった時、お前は何に切っ先を向ける?』

Amazonで「鬼人幻燈抄」を検索>>

コメント

タイトルとURLをコピーしました