本の感想:怒り/吉田修一

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怒り
吉田修一(著)

怒り(上)

特定の主人公がいるわけではない。

「あの人を信じていたから許せなかった」

最終章に高校生がつぶやく。
上下巻にわたる長編の意味は、この言葉の為にある気がした。

一つの殺人事件をめぐって「信じる」ということの意味を問う作品だ。
日々テレビやワイドショーで報道される殺人事件や強盗事件。この中には、未解決事件が多い。
つい最近も、栃木での幼女誘拐事件の犯人が8年の歳月を経て捕まったばかりだ。
「怒り」を読んでいる最中、何度も現実に起きた未解決事件がオーバーラップした。というよりも、小説の中の事件と現実に起きた事件との境目がなくなったというべきか。リアリティがあるのだ。

世の中で一番ぞっとするのは、人が人を理由もなく殺すことではないだろうか。(理由もなく、というのは当事者が理由を語らないという意味も込めて)
著者の吉田修一は、「怒り」の中で小説の中で起きた事件を解決に導いてはいない。
ただ、それぞれの登場人物に心情を語らせることで、現実に起きている事件解決の糸口を見出そうとしているのではないかと思うのだ。
人を殺さないまでも、「人を信じていたから、許せない」ということは、わたしたちの身の回りに多く在るように思う。
それらと殺人事件との違いは、世間に知られていない、ということだけである。

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