本の感想:ゲド戦記Ⅴ アースシーの風

面白かった本(小説)

ゲド戦記Ⅴ アースシーの風
ル=グウィン(著)
清水真砂子(訳)

たぶん、若い頃にゲド戦記Ⅴを読んだらつまらないと感じたと思う。
これまでのゲド戦記(Ⅰ~Ⅳまで)と違い、V「アースシーの風」では主人公ゲドは脇役に近い。物語の主軸として立ち回ることはほとんどない。また魔法使いとしてのかっこいいゲドには会えない。

若い頃につまらないと感じたことが、年を取るにつれ面白く感じたり興味深くなったりすることがある。年齢がある程度いったら分かるようなこと。そんな事が書いてあるのが Ⅴ「アースシーの風」なのかもしれない。

ゲドは髪も白くなり、どちらかと言うと普通の羊飼いの老人として日々を生きている。
ゲドの年齢は、60歳を優に超えていると思われる。おじいさんゲドだ。
羊たちや妻をはじめとする家族との生活が一番と感じているどこにでもいるおじいさんなのだ。
本書のもう一人の主人公であるハンノキがある日ゲドのもとを訪ねてくる。ハンノキにはある悩みがある。しかし、今のゲドにはハンノキの悩みを解決することは出来ない。

次の世代に何を伝えるか?
老いてこれまでの経験が生かせなくなったらどうすべきか?
そんな事を本書は考えさせてくれる。わたしも半世紀を生きてきたから本書でのゲドの心境が少し分かる気がする。

もともとはⅠ~Ⅲの三部作だったゲド戦記。その後、Ⅳ「帰還」は18年後、さらに11年後にⅤ「アースシーの風」が刊行された。三部作から30年近くたって描かれているわけで、その間、著者のル=グウィンにも心境の変化はあったはず。著者も年を取り、あらたに見えてきたものが「アースシーの風」だったのだと思う

わたしたちは動物のすることを見て、有害だとか有益だとか言うが、良い悪いは何をするか選ぶことを選んだ我々人間の側の問題なんじゃないだろうか。

『ゲド戦記Ⅴ』より

壮大なSFファンタジーであるゲド戦記は、全6巻からなる。ただし1巻は外伝として著されているため、実質この「アースシーの風」は、時系列でいえばゲド戦記最終巻ということになる。

一応まとめるとこうなる。

書名副題ゲドの年齢
ゲド戦記Ⅰ影との戦い少年
ゲド戦記Ⅱこわれた腕輪青年
ゲド戦記Ⅲさいはての島へ壮年
ゲド戦記Ⅳ帰還初老
ゲド戦記Ⅴアースシーの風晩年
ゲド戦記Ⅵゲド戦記外伝

若い人を遠目にみている自分がいる。
若い頃に分からなかったことが、年を取って分かる。それが良い事なのか悪い事なのか

ゲド戦記Ⅴ アースシーの風 は、そんな事を考えさせてくれる。

わたしたちはいつもいつも選ばなくてはならないが、動物はただ必要な状態に身を置き、必要なことをするだけだ。くびきにつながれているのはわたしたちで、動物たちは自由なんだよ。だから動物といると、少しばかり自由というものが分かってくる……。

『ゲド戦記Ⅴ』より

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