国語教科書の印象に残る短編

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「そうか、つまり君はそういうやつなんだな」


というセリフが出てくる国語の教科書に載っていた短編をご存じだろうか。
「車輪の下」でも有名なヘルマン・ヘッセの短編「少年の日の思い出」である。このセリフは、物語の語り手である主人公「わたし」が冷淡な友人「エーミール」から投げかけられる言葉だ。

驚くことに、わたしが中学生の頃に国語の時間に読んだこの短編は、30数年経った今でも国語の教科書に採用されている。(中学を卒業した娘が教科書を整理整頓した際に知った)懐かしく思い読み直してみると、中学校以来の再読にもかかわらず、改めてこの小説を初めて読んだときに感じた苦々しさが蘇った。

この短編では、主人公の「わたし」の回想録として少年の日の思い出が語られる。途中から「わたし」は、読者であるわたしとなり、最後の最後、主人公が蝶の標本を握りつぶすところで、読者自身の少年の日の空気や思い出が目の前にありありと蘇ってきてしまうのだ。

誰にでも思い出したくはないのに時として思い出してしまう苦い思い出があるものだ。「少年の日の思い出」を読むと、なぜかそうした嫌な思い出...少年時代のつまらない諍いや感情がありありと蘇ってくる。
中学生時代の様々な悩みを持つ時期の若者に、あえてこの苦い小説をぶつけた編集者の仕事には頭が下がる。
つまりは、冒頭の言葉は、読者であるわたしたち自身に向けられているのである。心に残る苦い言葉である。

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