チルルからノイへの短い手紙(旅の無い星)

火星 長崎瞬哉(詩人)
Mars 2003

今日のコメノ先生の授業は、まあ……つまらなかった。
僕は授業の半分を、次の遠足の事を考えるのに費やしてしまった。遠足の事を考えている最中、1度だけコメノ先生の話に注目した。コメノ先生がノイについて語り始めたからだ。

どうやらコメノ先生の話では、最近チルル宇宙局のメンバーがノイの移動の仕方についての研究を開始したらしい。驚く事にノイたちは移動にかなりの時間を使うようだ。それは想像を絶する。
例えばノイからチルル…彼らが呼ぶところの「地球」から「火星」まで行くために1年近くもかかるんだ!え?どういうこと?1年って。
しかもノイたちは宇宙を移動するために金属の不思議な形をした物体に1年近くも閉じ込められる必要がある。これは何か神聖な儀式か何かなんだろうか?理解できないよ。あとコメノ先生はこんなことも言った。

「ノイたちは転送をしない」

どおりでチルルでノイたちを見かけることが無いわけだ。僕らの遠足のようなものは、ノイたちには出来ないんだそうだ。学校のあるテムペの転送ゲートからシレーンの海とクロニウスの海の乾燥度を調べに行く1時間程度の授業をノイたちがやったとする。彼らは金属の物体に乗って閉じ込められながら移動して何日もかけて授業を終えることになる。しかもこの何日というのはほとんど移動するための時間にあてられるんだ。これじゃ授業にならないって。

この話を聞いて僕は考えた。
もしかするとノイはチルルのように色んな体を持たないんじゃないかって。

ノイはきっと常に同じ物体でいる必要があって、そのため転移ゲートのようなものをくぐることはできない。うーん。僕の頭じゃここまでか。そうだ!あとでマルソにこの考えを話してみよう。だってさっきの授業マルソったらずっと寝ていたしね。

第1話

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