ショートショート:ある日の宇宙

長崎瞬哉(詩人)

「はやいなあ」

「なにが?」

「子の成長だよ」

「そうねえ…」

 私の目線につられるように、妻も部屋の隅で埃にまみれていた写真立てに目をやった。
 あれはいつだったか。

 家の軒先で水浴びをしている子供たちと妻が写った古ぼけた写真。
 上の子は水鉄砲を手にして無邪気にはしゃいでいる。下の子が泣きじゃくっているのは、上の子の水鉄砲に標的にされたからか。
 笑顔の妻は若く美しい。きっとカメラを覗き込んでいる私自身も若くたくましかったに違いない。

 あっという間だった。

「子供って、あっという間だね」

 私はあえて声にしてみた。

「小さかった頃は、子供ってなんで毎日毎日同じ失敗ばかりするんだろうって思ってたのにね。いつの間にかできるようになって……毎日見てると、気づかないものね」

 もう一度、写真立てに目をやる。
 はしゃいでいる子、泣いている子、笑顔の妻。私がいつか見た光景。みんな、過去の事。

「ちょっとこわい気もするな」

「なにがよ」

「こうやって、親と子って昔から延々と続いてきたんだと思うと…」

「こわい?そうかしら」

「俺たちの親もこんな気分だったのかなあ」

「…さあ、ね」

 時間とは、一体何だろう。
 なぜ、今は今であって過去じゃないんだろう。
 人は、明日起きると思って眠りにつく。

「ただいまー」

 息子が帰ってきたようだ。

 一瞬だけ、宇宙の息づかいを聞いた気がした。

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