認知症の人の視点から描かれた映画である。
主演はアンソニー・ホプキンス。娘と暮らす老いた認知症の父親という設定だ。
アンソニー・ホプキンスと言えば、わたしは映画『羊たちの沈黙』でのレクター博士役のイメージしかない。狂気に取りつかれた天才博士レクター役はホプキンスのはまり役で怖かった。
映画『ファーザー』でのホプキンスは、違う意味で怖い。
家族の顔や名前を忘れるシーン。
家政婦が自分の腕時計を盗んだと疑うシーン。
知らない男の人が家にいて、あれは誰だ?と娘に尋ねるが現実には娘しかいないシーン。
認知症の老人の視点から描かれた本作は、観ているわたしも何度も騙された。
どちらが現実でどちらが妄想なのか分からなくなるのだ。
途中主人公が味わう怖さは、ホラー映画にも通じるものがある。(わたしは途中、この映画ってホラーだったっけ?と思ってしまった)
しかし、現実が明らかになるにつれ、主人公の不安をこえた「恐怖」が際立ってくる。
最後シーン。
「葉が一枚ずつなくなっていくようだ」という主人公は言う。
自分ではどうすることも出来ない切なさ、惨めさが漂っている。
『ファーザー』は、認知症の現実を突きつけてくる本当に暗い映画だ。
でもこれからの時代観るべきいい映画だ。
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