ショートショート「草とり」

長崎瞬哉(詩人)
『草とり』

「ほら、手を休めない」

ちょっとミミズ見ていただけなのに。もう。

梅雨の合い間の晴れた日、秋子は父と庭の草とりをしていた。

草と一緒に土から這い出てきたミミズをぼうっと見ていると、父から声が掛かったのだった。

草とりに飽きてきた秋子は、日頃から思っていた不満を口にした。

「五郎君のうちって、除草剤まくんだよ。父さん。

 除草剤まくと、草が生えてこなくて、すんごく楽だってさ」

こんどは父が手を休めて言った。

「除草剤は害がある。嫌いだ」

父は除草剤をまくことに嫌悪感を抱いている。草とりは、自分の手ですると決めているらしい。

自分だけで草とりすればいいのに。秋子は口には出さず、ちぇっと舌打ちした。

父は一言つけ加えた。

「除草剤をあびた虫の中には、死んじゃう奴もいる」

………

そろそろ今日の草とりも終わりかと秋子が考えていた頃、西の空がきらっと光った。

秋子が目を向けた方向に、銀色に光る円盤らしきものがあった。

円盤は秋子たちの方に急接近してくる。

UFO?

本で見たUFOは、わくわくした。でもこれが本物のUFOだとすると少し怖くなった。

「父さん、あれ!」

「ああ」

父もすでに驚きの顔で円盤を見ていた。

銀色の円盤は、近くの森の空でしばらく回転すると、地上に向け青白い光線を放った。

青白い光線とともに何か大きなものが地上に降りてきた。

巨大なロボットだった。ロボットは全部で3体いた。

秋子は、宇宙人かもしれないと思った。友だちと観た映画に登場する巨大なロボット型宇宙人に似ていたからだ。

ロボット宇宙人の頭には、それぞれ目のように赤い2つの球が光っている。

それにしても巨大な宇宙人だ。森の木も宇宙人のひざ位の高さしかない。

宇宙人なかでもとりわけ1体は、他の2体より頭一つ抜けて大きかった。

秋子はどうしようもない無力さを感じて逃げる気も失せていた。

父も秋子と同じようだった。父の手は秋子の肩にふれていたが、震えが秋子にも伝わってきた。

地球は宇宙からの侵略者たちにほろぼされてしまうのだろうか?
秋子の頭に映画のワンシーンが蘇った。

一番大きな宇宙人が何か声を発した。

「〇▽□!ーー〇☆□!!!」

それは秋子たちには分からない言葉だったが、宇宙人たちには合図だったようだ。

他の2体の宇宙人が動き出した。

まるで草でも引き抜くかのように、巨大宇宙人たちは森の木を根元から抜いていった。

みるみる森の木は減っていき、気づくと森のあったところは明るく平らな地面が広がっていた。

森がなくなると、また一番大きな宇宙人が何か声を発した。

「▲△〇□▲!ーー〇□□、ーー〇▲▽ー〇〇□!」

他の2体が答えた。

「〇●ー□??」

「□ー●□ーー。〇☆□ーー!」

やはり秋子には何を言っているか分からなかった。

………

………

………

銀河系の遥か彼方、イプシロン星人の言葉がわかる人にはこう聞こえただろう。

『ここも雑草が生えてきた。草とりじゃ間に合わないから除草剤を散布しよう!』

『虫に害はないの?父さん』

『小さい虫は死ぬかもな。でも雑草をなくすことが先だ!』

しばらくして、秋子と父の上に虹色の雨が降ってきた。

秋子はきれいだなあと思った。

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