「爆風には『往復ビンタ』があるんです。爆風に備えて目と鼻と口を押さえて、吹きすぎたと思って安心したら、ほとんど同じスピードで吹き返しが来るわけです。そういうことは国も学校も教えてはくれない」
「不思議なものでね、空襲のときの自分を別のレンズで撮ったように記憶しているんです。爆発の衝撃で自分の両足が一瞬、空中に上がった瞬間を、横から見たように覚えている。もちろんそんなはずはないんだけれど。瀕死の状態にある自分を客観的に眺めているように感じる『臨死体験』というのがあるでしょう。あれと似たようなものなのかとも思うんですが」
「45年の8月になってから、歴史の先生が、生徒を教室に集めて、窓とカーテンを全部閉めた。それで、日本は負ける、負けた場合に我々大人はどうされるかわからないけれど、まさか子どもまで殺されはせんだろう。だから、あとの日本をよろしく頼むよと言ったんですね。それから1週間たたないうちに本当に負けた。戦後、その先生は間違ったことを教えて申し訳なかったと、学校を辞めて故郷へ帰っていきました」
「ただ、間違っていたと謝ったのはその先生ぐらいですよ。ほとんどの大人は、戦争中に行っていたことと百八十度違うことを平気で言うようになった。大人への不信感というのは大きかったですね」
2024-08-15 朝日新聞朝刊 辻 真先氏へのインタビュー記事より
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