2016年4月のメモ

人の世
智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向こう三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。

越すことのならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。

「草枕」/夏目漱石

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