2021年9月現在『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ全12巻中(角川スニーカー文庫)の第4巻にあたるのが、『涼宮ハルヒの消失』である。
そう考えるとこの『~消失』は、シリーズのかなり前半部分にあたるわけだが、本作の特長は前3作品である『涼宮ハルヒの憂鬱』、『涼宮ハルヒの溜息』、『涼宮ハルヒの退屈』を全て読んでからでないと物語の真の感動が得られないことにある。
ちなみにそれ以外の巻はどこから読んでもライトノベル調な基本を押さえたSFとして面白いのだが、この『涼宮ハルヒの消失』だけあきらかに前3作とは雰囲気が異なっている。
もちろん登場するキャラクターがこれまでと比べて増えるわけでも減るわけでもない。
涼宮ハルヒを団長とするSOS団メンバーのキョン(主人公)、朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹の5人は健在だ。(今回ハルヒはほとんど出番がないが…)
読者は、シリーズを通して登場するキャラに対して、ある程度の人物イメージを持つものだ。
このキャラはこういう場合、コレコレこのように考えて行動するだろう、とか。
このキャラは、こうした行動はしないだろう、とか。
本作でいえば、朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹の3人がこうしたキャラにあたる。
予想外が楽しい。
この人こういうこと言わないよな、という人が予想を裏切ると楽しいものだ。
だから『涼宮ハルヒの消失』を読んで真の感動を得たいのであれば、前3作品を読んでから入ることをおすすめする。
本作は映画化されたことでも分かるが、ライトノベルの枠をこえてSF叙事詩あるいは文学作品として成り立ってしまっている。それまでの話は、この消失のための前振りだったのか!と思わせるくらいに本作の内容はミステリアスで刺激的だ。
刺激的と言えば、本作では、主人公同様のメインキャラの涼宮ハルヒがほとんど登場しない。タイトル通り涼宮ハルヒは世界から消失している。もともと世界改変の力も持っていた涼宮ハルヒがいないのだ。これは涼宮ハルヒがやったことなのか?あるいは別の人間の仕業なのか?その謎を解いて元の世界に戻ることが主人公キョンの目的ともなっている。
キョンのとった行動に対して「もし~だったら」と考えてしまうのは、涼宮ハルヒたちSOS団のキャラクター1人1人に対し読者としての思い入れがあるからなのかもしれない。
あらためて本作で、涼宮ハルヒシリーズの登場人物たちがわたしの中で生きていることを知った。
ちなみに、わたしの持っている本は、角川文庫版なのだが最後の尾崎世界観の解説も的を得ていて一読の価値がある。
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