なぜこの本を手に取ったかをまず書きたい。
1つ目。「メメント・モリ」というタイトルだった。
わたしの記憶では、この「メメント・モリ」という言葉を挨拶として使う民族が存在し、その意味は「死を想え」だという。印象深い言葉だ。
2つ目。書き出しが興味を引いた。何気なくめくったページの冒頭にこう書かれてたのだ。
「私は今何を書こうというあてもなしに、これを書き始めた。右に題名を掲げたが、最初に浮かんできたのは、この言葉だった…」
『メメント・モリ』 より
とっても期待感がある。(わたしもこんな感じで本を書き始めてみたい!などと思わせるかっこ良さではないですか)これだけで本書『メメント・モリ』を読むことにした。十分な動機だ。内心は《ホントに期待していいのかい?》などと思いながら読み始めたのだったが…
わたしはこれまで原田宗典という著者の本を一冊も読んだことがなかった。原田宗典初心者にとって『メメント・モリ』が最初の本だとすれば、本書はかなり衝撃的だ。最低最悪な人間が数多く登場する。でも、人は最低最悪が跋扈する世界を垣間見たい生き物だ。内容は衝撃的なのに著者の語り口は心にすっと入ってくるから不思議だ。
冒頭の書き出しからして本書『メメント・モリ』は、著者自身の話だと考えられる。
して、その内容は……「友人との大麻吸引」「覚せい剤の売人の話」「うつ病発症」「50代で家族と離れ一人暮らし」「刑務所で18番だった時の話」「家庭崩壊の危機」「自殺未遂して死の淵から還った話」「日本を離れて海外の戦争に兵士として参加する男への取材話」などなど。
鬱々としてくる内容ばかりが並ぶ。がしかし、最低最悪な世界を知りたいわたしは興味を持って読み進めることができた。《興味を持って》読み進めることが出来たもう一つの理由は、著者に自身を客観視するユーモアがあるからだ。精神病院に初めて行った時の描写などは大いに笑いこけてしまった。
もう一つ本書に《興味を持つ》部分があるとすれば、著者が事の経緯を書いていない点だ。薬物(大麻や覚せい剤)になぜ手を出したか?刑務所から出所した後の家族との関係は?など気になる点が、本書のどこかで明らかにされることはないのだ。ゆえに《興味を持って》あるいは《自身に置き換えて考えながら》読み進める事ができる。
本書では最後の「ある青年に赤ちゃんが誕生した話」だけが救いとなり、ある意味爽やかに幕を閉じる。多分世の中には、「メメント・モリ」と銘打ち、生きることや死ぬことに対して真面目に書いた本も多いと思う。本書は、題名からは肩透かし食らわせられた感じがして、実は本質をついている気がする。
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