ミステリー小説として、あるいはSF小説と考えても面白い小説だ。
読み終わってから色々と考えさせられた。
プラチナデータ
東野圭吾(著)
しかし、読後感は悪い。
わたしの妻もそういっていた。
読んでいる最中はその先がしりたくてついつい読み進めてしまう。
結末に対して何らかの希望が見いだせないから読後感が悪いのかもしれない。
結末に「希望」が見られない、という意味ではない。
たぶん。
それでいいのだろうか、という人としての気持ちを最後に問われるからだと思う。
作者が最後に「人としても気持ち」を問うているわけではないが、わたしにはそう感じた。
現在でも犯罪の検挙においてDNA鑑定は行われている。
『プラチナデータ』は、このDNA鑑定をさらに発展させた捜査方法が確立されたの近い将来という設定だ。
そういう意味では、『プラチナデータ』はミステリーの形をとっているがSF小説に近いといえる。
現在のDNA鑑定を超える情報が、市民のDNA情報からもたらされる。
DNA情報からモンタージュが作成出来る。
3等親までさかのぼって犯罪者にかかわる情報が絞り込める。
この日本が開発したDNA検索システムで犯罪の検挙率は格段に上がっていく。
そして世の中にこのDNA検索システムをそのままでは受け入れたくない人物たちがいる。
『プラチナデータ』の意味はこのミステリーの後半で解き明かされる。
権力、庶民。
的確に表現しているセリフが、副主人公でもある研究所主任解析員の神楽(かぐら)が登場とともにつぶやく言葉の中にある。
DNA情報を管理することに対し、
「国民が許さない?ねえ、浅間さん。国民になにかできるわけですか?デモをしようが、演説をしようが、政治家たちは自分たちの通したい法案を着々と通していく。これまで、ずっとそうだったでしょ。国民の反対なんかは関係ない。それに国民だって、どんなに無茶な法案を通されようが、怒っているのは最初だけで、すぐにその状況に慣れていく。今度も同じことです。最終的には、DNAを管理されるのも悪くないと皆が思うようになる」
ある種の期待を抱きながら人はミステリーを読む。期待に背いた結末に対し、失望を憶えることもある。しかしその失望こそが、このミステリーを面白くしている要因でもある。
読んだ後にも考えさせてくれる本はいい本だと思う。
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