百年法
山田宗樹(著)
感想
不老不死という人類の夢が実現した世界。
100歳で死ななければならないという法律が出来たら賛成するか反対するか?それとも法律から逃げるか?……自分だったらどうするのかを考えさせてくれる点が本書の最大の魅力だろう。
上下巻合わせて800頁をこえるSF長編だが一気に読んでしまった。
近未来SFのわりに登場人物たちに感情移入しやすいのは、庶民目線を忘れていない筆致だからだろう
ラスト。
ある登場人物から国民に向けたメッセージが掲載される。「日本」と「自分」とを強く意識して現在と重なった。
物語の核となる「百年法」
不老不死が実現した世界は、いまだかつてない。だから小説や漫画のなかでは数多く表現されてきた。山田宗樹の描く『百年法』は、不老不死と人類をテーマに描いたSF小説だ。
先の世界大戦後の日本を少しSFで味付けして設定を変えて描き出された世界。そこでは人類は不老不死を選択できる。
「百年法」の説明がまず必要だろう。
生存制限法。これを物語では通称「百年法」と呼んでいる。
不老化処置を受けた国民は
『百年法』より
処置後百年を以て
生存権をはじめとする基本的人権は
これを全て放棄しなければならない
不老化処置というのは、先の世界大戦前後に米国で研究され実証されたHAVIと呼ばれる老化ウイルスを生命から除去する処置の事。
この処置を行うと見た目や運動機能はそのまま生存できるというもの。
本書の魅力
例えば、20歳でHAVIを受ければ20歳の容姿のまま生存でき、40歳で受ければ40歳の容姿のまま生存できる、これは魅力的な世界だろう。
どの年齢でこの処置を受けるか、あるいは処置を受けずに年をとるかは20歳以上の国民なら自分で決めることが出来る、という設定も面白い。
登場人物が多い。
政界から一般庶民までと数多くの登場するが、それぞれが複雑に絡み合って一つになっていく様は長編小説ならではの醍醐味。
上巻はHAVIを受けて不老不死となった政界側の遊佐章仁の視点。下巻はHAVIを受けずに老化していく仁科ケンの視点となっている構成も絶妙で飽きずに読み進めることができた。
「人の死を制御しなければ国として立ちいかなくなる」という弊害が発生したとき、人々は一体どんな選択するのか?
物語の中だけの話ではなくなってきた気がする。
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