本の感想『正欲』朝井リョウ

面白かった本(小説)

正欲
朝井リョウ(著)

正欲(せいよく)は、辞書には載っていない言葉で著者の造語だろうが、このタイトルは秀逸だ。
新しい単語の候補として辞書に載せてもいいかもしれない。そう思わせる小説だ。

性的な欲求がテーマの小説だろうという安易な考えをもってわたしは本書を購入した。
タイトルの正欲を脳内で性欲と変換しつつ本を手にしたのだった。

中身はまさに『性的な欲求』がテーマの一つにはなっていた。
しかし、性的な欲求だけとはちょっと違う。読み進めると違和感が出てくるのだ。

大学祭の実行委員となった女子大生八重子、家族との関係に問題を抱える検事寺井、彼らを取り巻く登場人物たちが、LGBTQなど多様性を尊重しようとする現代社会の背景とともに描かれていく。

あれ?多様性もテーマなのかなと右往左往しているうちに、尻切れトンボのような形で小説は終わりを迎える。

本書は最後に読者を突き放す
しかし、ここからが本番だ。
読者は、読み終えた後『正欲』という言葉について考えさせられてしまうのだ。

わたしの場合、読み終えて、小学生のころ友達同士で相手のことを変態呼ばわりしてふざけ合っていた当時を思い出した。

変態もLGBTQという言葉も線引きなのだ。
相手のことを何かの言葉をもって表現するとき、自分は、こっち(正しい側)相手はあっち(正しくない側)という線引きをいつの間にかしていることに気づく。

右利きの人と左利きの人は昔からいるのに、右利き向けの商品やサービスが多いのは右利きの人が圧倒的に多いからだ。

異性に対して性欲を感じる人が圧倒的に多い社会でわたしたちは生きている。
あらためて正欲という言葉の重みに感じ入った。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました