父と母の寝室に一つだけレコード盤が置いてあった。
気楽に行こう
という曲名らしかった。
レコード盤は、父のものらしかったが、父がこのレコードを聴くところを見たことはなかった。
わたしは好奇心から、自宅のレコードプレーヤー(スピーカー付きのポータブルなやつ)で、再生してみた。
気楽にゆこうーよー 俺たちはー しーごとも無ければ― 金もないー …
と始まるのんびりした曲だった。
小学生のとき、車のエンジンオイルのCMでもこの曲が使われていた。(これもまたのんびりしたCMだった。確か歌っているすずきひろみつ本人が出演していた)
小学生ながらに「いい加減なこと歌ってる曲だなあ」と少しあきれつつも面白がって何度も聴いた。
大人になってから、「のんびり生きたいなあ」と思うようなとき、決まってこの曲の歌詞を思い出す。
最近では晴れた日に原付バイクに乗っていると思わずこの曲を口ずさんでしまう。
父が聴かない父のレコード盤について、小学生のある日「このレコードどうしたの?」と聞いてみた。
「友人の結婚式でこの曲かけたんだよ」と父は言った。
友だちの結婚式で「仕事も無ければ、金もない~」か。
選曲が父らしいなあ、と思った。


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