まだスーパーが普及していなかったころ、わたしが小学生のころだ。
ある夜、夕飯を終えてだらだら酒を呑んでいた父がわたしに言った。
酒買ってきてくれ
夜九時くらいだったと思う。
我が家では米を近所の米屋で買っていた。米を定期的に配達してくれるのだ。
その米屋では酒も売っていた。
『ああ、あの米屋か』とわたしは思った。
でも夜遅くに店が開いているのだろうか?
それより、なんでこんな時間に父が飲む酒をわたしは買いに行かなければならないのか?
『いやだ!』とは言わなかった。恐くて言えなかったのだ。
夜中に開いていない店の扉をたたいて、なんとか一升瓶を買い暗い道を帰った。
店主のおばさんが何かわたしに言ったのだが、憶えていない。
ただ、父がわたしに酒を買いに行かせたのはその一度きりだった。
その事を父は憶えているのか、酒に酔って忘れてしまったか。
とにかく、酔っぱらっている父ほど嫌いなものはなかった。
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