どんぐりケンケン

長崎瞬哉(詩人)
どんぐり2つ

「行ってきます!」まさる君はいつものようにランドセルをしょって学校にいきます。

妹のみさきちゃんは今日は熱を出してお休みです。

「お兄ちゃん行ってらっしゃい」

あれれ?妹のみさきちゃんが玄関まで出てきました。熱があるのにどうしたのでしょう?

「お兄ちゃん。これ」

みさきちゃんの手のひらにはどんぐりが2つありました。

「なんだい。これ?」

「昨日がっこうに落ちてたの。大切なものかもしれないからお兄ちゃん返してあげてね」

(どんぐりなんか落とすひといないよ!)

まさる君はこころの中で思いました。

みさきちゃん

みさきちゃんは、いつも考えていることがまさる君とはちょっと違うみたいです。

そうそう… 家族で街に買い物にいったときこんなことがありました。

前をあるいていたおじさんがごみを投げ捨てました。

それを見たみさきちゃんは、「おじちゃん落ちたよ」といってごみをおじさんに渡しました。

自分の捨てたごみが手に戻ってきたおじさんは、目を丸くしてみさきちゃんを見ていました。

(いつもみさきって変だよなあ)

とまさる君は思いましたが「落とした人がみつかるといいね」といってどんぐり2つをポケットにしまいました。

「じゃあ、行ってきます!」

「いってらっしゃい!お兄ちゃん」

男の子と女の子

まさる君の学校は長い長い坂を上がったところにあります。

坂の途中にはおいなりさんを祭った神社があります。

鳥居の奥には、2匹のおいなりさんが入り口に祭ってあります。

まさる君はこの二匹のおいなりさんが少しにがてです。いつもまさる君の方を見ている気がするからです。

まさる君がちょうどおいなりさんの前を通ったときです。

「ケーン、ケン!」神社の方から音がしました。

まさる君が神社の方を見ると、鳥居の下に男の子と女の子が立っています。

まさる君おなじくらいのせたけの男の子と女の子でした。ふたりともおいなりさんみたいに肌が真っ白で目が細い子です。

「ケン!」男の子がいいました。

「ケン!」女の子がいいました。

まさる君は少しこわくなりました。

走って通り過ぎようとすると、後ろからまた声が聞こえました。

「ケン、ケン」

振り向くと目の前に男の子と女の子が立っています。

いつの間に近づいたのでしょう。まさる君はしりもちをつきそうになりました。

男の子と女の子は、細い眼を大きくあけて、手のひらをまさる君の方につき出しています。

うーん。まさる君はこまってしまいました。

「あっ、そうだ!」

まさる君は朝みさきちゃんがくれたどんぐりをおもいだしました。「どうぞ!」

まさる君はポケットからどんぐりをとりだすと、男の子と女の子の手のひらに一つづつのせました。

「ケーン。ケンケン!」男の子はうれしそうにかけ出しました。

「ケーン。ケンケン!」女の子もうれしそうにかけ出しました。

あっという間に二人は神社のおくにきえていきました。

「あれれ?」

まさる君は、走っていく二人のおしりにしっぽのようなものを見た気がしました。

コン!コロコロ

算数の時間です。まさる君は先生が黒板にかいた問題をといています。

コン!コロコロコロ・・・

前の席のしゅんやくんの席の下から何かころがってきました。

どんぐりでした。

どんぐりはまさる君の足元で止まりました。

しゅんやくんは算数の問題をがんばってといています。

まさる君はどんぐりをひろってしゅんやくんのせなかを「トン、トン」とたたきました。

ふりかえったしゅんやくんは、どんぐりを見るとニッコリとして「ありがとう。ケン」といいました。

帰り道、まさる君の前を歩いていたなつきちゃんが何か落としました。

コン!コロコロコロ・・・

どんぐりでした。

どんぐりはまさる君の足元で止まりました。

なつきちゃんはどんぐりを落としたことに気づかずにどんどんいってしまいます。

まさる君はどんぐりをひろって、いそいでなつきちゃんを追いかけました。

「なつきちゃーん!これ」

ふりかえったなつきちゃんは、どんぐりを見てニッコリして「ありがとう。ケン」といいました。

おいなりさん

帰り道、神社のおいなりさんは、あいかわらずまさる君の方を見ています。

神社の木が風にゆれています。

気のせいでしょうか「ケーン、ケンケン!」風にまぎれてそんな声がまさる君にはきこえた気がしました。

家に帰ると、まっさきに妹のみさきちゃんがかけてきました。もう熱は下がったみたいです。

まさる君はいいました。「みさき、どんぐり返しておいたよ」

「ありがとう!お兄ちゃん。みさき夢をみたよ。神社のおいなりさんがでてきてね・・・」

みさきちゃんの話を聞いて、まさる君は神社で出会ったふしぎな子どもたちや学校でのことを思い出しました。

なんだか嬉しくなって、まさる君は思わず声をあげました。

「どんぐりケンケン!」

「あれ?お兄ちゃんなんで知ってるの?」

顔を見合わせたみさきちゃんとまさる君は、ぷっと二人いっしょに笑い出しました。

ー おわり ー

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