祖母と回虫

そういう気持ち

わたしが子供の頃、富山の薬売りという行商のおじさんがいた。
年に何回か我が家にバイクでやってきて置き薬を交換していく。毎回、おじさんがゴム風船や紙風船をくれるので、子供心には楽しみだった。

置き薬の中に、わたしが飲んだことのない「虫くだし」という薬があった。虫くだしの文字は手書き風に描かれていて、特に「し」の字が異様に長く虫のような形をしていた。

わたしは飲んだことのないこの薬に興味をもっていた。
一度祖母に「虫くだしってなに?」と聞いたのだった。返ってきた答えはわたしの心をとらえた。

祖母は若い頃に、一度「虫くだし」なる薬を飲んでいた。
飲んだ後、大便をもよおしたのでトイレにいくと、それはそれは大量の白い回虫が祖母の身体から出てきたのだそうだ。
回虫自体を知らなかったわたしは、祖母の語る「細長くて白い」という回虫に気持ち悪いと口にしつつも心の中では面白がっていた。

「おら、二度と虫くだしは飲まねえよ」

と祖母は最後に言った。(祖母は自分の事を「おら」と言う)

なんでも自分の身体から白い回虫が出てきたとき、祖母は気を失いかけたらしい。
子供は、怖い話や気持ち悪い話が大好きだ。
わたしはその後も何度か祖母に「虫くだし」の話をせがんでは、「おら、二度と虫くだしは飲まねえよ」を引き出していた。

祖母の話が誇張されていたのか、何度も聞いて脚色された結果なのか分からないが、わたしの中で、祖母の回虫は、どんどん大きくどんどん大量となっていった。

93歳で祖母はその生涯を閉じた。
虫くだしを飲まなかったらどうだったのかな、などと夢想することがある。

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