本の感想:希望の海へ

希望の海へ
マイケル・モーパーゴ(著)

希望の海へ

かつて戦争があった。
もちろん、今現在戦争中の国もたくさんある。そんな国や地域の人が「かつて…」と言った時、『希望の海へ』のような小説がまた生まれるのだろうか。
マイケル・モーパーゴの小説『希望の海へ』は、イギリスからオーストラリアへ戦争孤児として海を渡った少年の二世代に渡る物語だ。

この本は、歴史書の一つかもしれない。
ノンフィクションではないが、フィクションとも言い難い。
コアラやカンガルーがいる国がオーストラリアであるなら、イギリスから連れてこられ、奴隷として働かせられ殺されていった少年少女がいた国もオーストラリアなのだ。
オーストラリアは18世紀にイギリスの植民地となった。
先住民は肌の黒いアボリジニだ。

作者のマイケル・モーパーゴは、イギリスから世界の国々へ渡った多くの少年・少女の記憶を集めているうちにこの小説を書くことを決意した、とあとがきにある。
なぜ調べたか?それは、少年・少女が親や家族がいるのに孤児として外国に移住することになったからである。

主人公のアーサーには、何もない。キティという名の姉がいたという記憶。キティとは仲が良かったという記憶。「ロンドン橋落ちた」の唄がとても好きであるということ。首から下げている鍵(姉から渡されたと思われる)を持っていれば、いつかまた姉と会うことが出来るという希望。
アーサーは、オーストラリアの牧師が運営する牧場で働いている。一緒に働く仲間は、アーサーと同じく家族と離ればなれでイギリスから連れてこられたのだ。

第一部は、アーサー・ボブハウスの物語だ。
オーストラリアでの奴隷生活、平穏の訪れ、悲しい別れ、結婚、娘と交わした夢、アーサーの死までが描かれる。
物語での重要な人物たちが、あっけなく死んでゆく。でも、人生も一生を描くのならそういうものかもしれない。

第二部は、アーサーの娘アリーの物語。メールやインターネットも登場する現代だ。アリーは、アーサーの形見である幸運の鍵を持っている。

オーストラリアは白人労働者を増やしたかった。
イギリスは戦争孤児を養える余裕がなかった。
国を作っているのが人であるなら、国に翻弄されるのも人だ。

ロンドン橋落ちた」の唄が最後に流れる。
主人公アーサーの持っていたかすかな記憶の謎が明かされる瞬間だ。

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