本の感想:この世の全部を敵に回して

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この世の全部を敵に回して
白石一文(著)
この世の全部を敵に回して (小学館文庫)
最後まできちんと読まないとこの本に対して誤解が生じる本だと思った。
だから解説で川上弘美も「この本に出会えますように」と言っている。


本書は、編集社につとめる「私」の古い知り合いであるK***氏の手記という形をとる。
その手記のタイトルが「この世の全部を敵に回して」だったため、「私」はそのまま採用することにし、本として出版した、という設定になっている。
主人公は53歳の妻子ある男で、すでに亡くなっている。(病気のため)
途中で途中で嫌悪感を抱く(というか誤解をまねく)考え方や言動が出てくる。
例えば冒頭で主人公は、妻子を本当には愛してはいない、と言い切ってしまう。
しかし、後で主人公を知る人から見た主人公の印象は「家族思いな人でした」となっているのだが。
わたしは白石一文の著書は何冊か読んでいるので、著者が「人間とは」「生きるとは」ということにまっすぐに取り組んで書いている人だということを知っている。
「僕のなかの壊れていない部分」はタイトルを含め傑作だと思っている。
端から見ると「僕のなかの…」の主人公は最低なヤツに属するのかもしれないが、「生きる」という点では真剣に生きている。
白石一文の作品は、人に嫌われるようなキャラクタを主人公にすえることが多いように思う。
読んでいるときは何を考えているのだとか、そこまで深く突き詰めなくてもと思ってしまうのだが、あとで自分でもなんでだろうか、と考え込んでしまう小説を書く人だ。
本書はそういった意味では小説というより、白石一文本人から読者に直接宛てた手紙なのだと思う。

戦争、テロ、狂信、犯罪、飢餓、貧困、人種差別、拷問、幼児虐待、人身売買、売買春、兵器製造、兵器売買、動物虐待、環境破壊--。私たち人間は歴史の中でこれらのうちのたった一つでも克服できただろうか。答えは否だ。

本文より
これらの問題についてすべてに氏は主人公を通して自らの考えを提示している。
本書のように社会の様々な問題に対してここまで突き詰めて考えたことがわたしには無いため、それらが正しい考えなのか間違った答えなのかを言う資格はない。
氏は「生まれて死ぬまで」の間、「生きる」ということについて考えさせてくれる貴重な作家の一人であることは確かだ。

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