叱られ役

そういう気持ち

小学生時代のわたしは、台風が近づくとどこかわくわくするところがあった。
実家の近くは千曲川が流れていて、台風や大雨が降ると水かさが増し川沿いの畑がよく水に浸かった。
土手から見る増水した千曲川は、いつもの深緑色ではなく濁った土色をしていて、その中を大木などが流されていく様は自然の驚異そのものだった。わたしは不謹慎ながら、色々なものが川に流されていく様子を友達同士声をあげて楽しんでいた。

ある台風の日、友達と土手に行った。もちろん、何か面白い光景にありつけることを期待してだ。
消防団らしき人や近所の大人たちが水門のあたりに集まっていた。ちょうど土手の上から下の川に向けて大きなホースのようなものを降ろしていた。
わたしには、そのホースが、土手の上から川に降りる滑り台のように見えた。

同じように想像した馬鹿な子供がやはりいたようだ。
大人たちの作業の合間を縫って、別の地区から来ていた同級生の一人がわたしのイメージした通りの行動を起こしたのだ。

なんと彼は、土手から川に下ろしたホースに尻をつけて、増水した川に向かって滑り出したのだ。

馬鹿野郎!死にたいのかっ。

土手の斜面で作業をしていた大人に一喝され、その場でそいつは取り押さえられた。
現行犯逮捕だ。「家に帰って勉強してろ!」まで言われたかは分からないが、そいつはその後も大人たちにこっぴどく叱られ、しゅんとなってすぐにその場からいなくなった。

わたしは「馬鹿だなあ」と友達と顔を見合わせて笑った。
でも、内心は自分じゃなくて良かった、と思っていた。

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